要約者レビュー
井上久男著
プレジデント社 216p 1400円(税別)
有名企業に勤めていても、いつ職を失うかわからない時代が到来している。日本の経済情勢がこのままならば、やがてさらに公務員の給料も減らされ、年金の受給開始年齢の引き上げや支給額の減額も行われるだろう。政府の「一億総活躍」というスローガンはすなわち、生涯現役で働き続けられるような実力を身につけよということである。
本書は、著者自身の経験からだけでなく、様々な業界から転職・独立した人たちへのインタビューを踏まえながら、満足のいく働き方を続けるために何をするべきなのかを総括している。実際の体験談を元にしているため、起業をするかしないかにかかわらず一人ひとりが「起業家精神」を持たなければならない、という著者の主張には説得力がある。
独立・起業できるかどうかを分けるのは経営知識やスキルの有無ではなく、気づきの力であるというのが本書の主張だ。かつて、パナソニックの創業者である松下幸之助が市電の走る姿を見て「これからは電気の時代がくる」と確信したように、ある現象から何を感じ取るかによってその後の歩むべき道は変わる。そのような感覚は一朝一夕で身につくものではないが、先人たちがどのような気づきを得て自らの道を選択したのかを知ることで、将来の指針が見えてくることもあるだろう。本書で紹介されているモデルケースの数々は、将来像を描いていくうえで大きな参考となるはずだ。 (石渡 翔)
著者情報
井上 久男(いのうえ ひさお)
1964年生まれ。福岡県出身。88年九州大学卒。NECを経て92年朝日新聞社に転職。名古屋(豊田市駐在)、東京、大阪の経済部でトヨタ自動車や日産自動車、パナソニック、シャープ等を担当。2004年に独立し、文藝春秋社や東洋経済新報社等が発行する各種媒体で執筆。「現代ビジネス」(講談社)などに連載コラムを持つ。最近は農業の取材も積極的に行っている。主な著書に『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『トヨタ愚直なる人づくり』(ダイヤモンド社)、『トヨタ・ショック』(講談社、共編者)。13年放映のNHKテレビ60年記念ドラマ「メイドインジャパン」の脚本制作に取材協力。05年大阪市立大学大学院創造都市研究科(社会人大学院)修士課程終了、10年同大学院博士課程単位取得退学。16年4月から福岡県豊前市政策アドバイザー(非常勤)に就任予定。神戸市在住。