慎重の上にも慎重が求められる同定作業を担当した小林は、世界中の研究者ネットワークと徹底的な分析からその標本がハドロサウルス科であることを確信しても、まだその事実を世間に公表することを選ばなかった。この標本が発見された場所の周辺に更なる化石が残っているかもしれないからだ。恐竜発見のニュースに引き寄せられた人々に、貴重な資料を荒らされる訳にはいかない。水面下の発掘作業は、自治体を巻き込んで、より大きく動き出していく。

 小林は本書の「おわりに」で、以下のように述べている。

 “私たちが発見したのは、まだ「ダイヤの原石」でしかない。”

 発掘作業は、珍しい化石を掘り起こすだけでは完結しない。大規模な発掘作業で得られた化石は、これから何年もかけてクリーニングされ子細に分析されなければ、何も語りかけてはくれない。原石は、多くの人によって磨かれてはじめて、輝き始める。完璧な化石をめぐる物語は、始まったばかりだ。

日本初の恐竜の全身骨格化石が10年かけて掘り出されるまで