7月22日、ミュンヘンの商業施設で発生した乱射事件は死者9人を出す惨劇となった Photo:REUTERS/AFLO

7月22日、ドイツ南部ミュンヘンで発生した無差別乱射事件では9人が殺害され、容疑者のイラン系ドイツ人の少年は自ら命を絶った。事件はテロとは無関係であったが、その前後にイスラム国に影響を受けたアフガニスタン出身の少年やシリア出身の男性によるテロが発生したため、テロか否かに関係なく、ドイツではイスラム圏出身者に対する恐怖感が社会に浸透し始めている。(取材・文/ジャーナリスト 仲野博文)

白昼のミュンヘンで無差別乱射
容疑者はいじめに遭っていたとの報道も

 事件は22日午後、ドイツ南部のミュンヘンで発生した。ミュンヘン北部のマクドナルドで男が突如店内の客に向かって銃撃を開始。銃を持った男はそのまま向かいのショッピングセンターに侵入し、発砲を繰り返しながら建物の中を移動、立体駐車場の屋上に登った。その際の映像が近隣住民によって撮影されており、住民はショッピングセンターに隣接する建物のバルコニーから撮影を続けながら、屋上をゆっくりと歩く銃撃犯に対して、「お前はトルコ人か?」と呼び掛けている。これに対し、容疑者が「俺はドイツ人で、この国で生まれた」と叫び返している様子が動画からは確認できる。

 無差別銃撃が数ヵ所で発生したこともあり、警察当局は複数の実行犯によるテロの可能性が高いとして、ミュンヘン市内の公共交通機関にバスや地下鉄の運行をストップさせた。ミュンヘン市内には警察官が増員され、容疑者の捜索には警察特殊部隊も投入されたが、事件現場から約1キロ離れた場所で死亡している男が発見され、地元警察はこの男による単独犯行であったという見解を公式に発表した。警察の発表によると、銃で自らの命を絶ったのだという。

 自殺した容疑者は18歳のアリ・ソンボリーで、同地で生まれ育ったソンボリーはドイツとイランの二重国籍であった。ミュンヘン市内のアパートで両親と一緒に暮らしていたソンボリーは過去にいじめに遭っていたことも判明しており、精神疾患で通院歴があったことも確認されている。警察は家宅捜索を行ったが、イスラム国との関係を示すような証拠品はなかったと発表している。しかし、学校のキャンパスでの乱射事件における銃撃犯の心理状態を調査した本が発見されており、ソンボリーが以前から無差別乱射に関心を示していたと警察当局は見ている。

 犯行の動機は依然として不明だが、デメジエール内相は23日、ソンボリーは別の女性になりすまし、フェイスブックで事件現場となったマクドナルドに来れば「商品が値引きしてもらえる」という投稿を行っていた可能性について言及した。より多くの人を殺害する目的で、他人のアカウントを使って現場への誘い出しを試みた可能性もある。