統計学の大学教員が足りない!

――そうですか、厳しい状況ですね。ただ、ビッグデータや統計学ブームが追い風となって、統計学を志望する学生が増えたり、統計関係の仕事が増えたりするといった動きはないのですか?

竹村 さすがに2倍、3倍にはなっていませんが、すでにお話ししたように、学生の人気は出ていると思いますよ。たとえば、理学部数学科の中で統計学を志向する人は以前から多かったのですが、さらに志望者が増えています。しかし、それが良いかどうかは、実はビミョウなところがありますね。数学科に統計志望の学生が来ても、数学科の先生としては「忙しくなるだけだ」となって喜んではもらえない……。

世界から遅れつつある日本の統計学西内啓(にしうち・ひろむ) 東京大学医学部卒(生物統計学専攻)。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、現在はデータを活用する様々なプロジェクトにおいて調査、分析、システム開発および人材育成に従事する。 著書に『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)、『1億人のための統計解析』(日経BP社)などがある。

西内 純粋な数学者が増えるのではなく、統計学のほうに人材が流れていってしまって、数学科の先生としては少しも嬉しくない、ということですか。

竹村 そういうことです。もともと数学科の先生は忙しいんですよ。東大の場合でいうと、1〜2年生の教養段階で数学を教えているのは数学科の先生です。入試問題も作らないといけない。人手が圧倒的に足りない。だから、数学の先生が保守的になるのは当たり前なんです。

西内 地方の単科大学になると、統計学の人材不足はもっとひどい状況と聞いています。統計学が専門ではない先生が、1〜2年生に統計学を教えなければいけないということもあって、「統計学はよくわからんけど、SPSS(統計解析用のソフトウェア)はこう触ればいいんだ」くらいの授業が結構行なわれているようです。

竹村 実際、多くの大学では1〜2年生の統計学の講義は、非常勤の先生の力にすごく負っているんです。数学の講義ですと50人クラスのように人数がコントロールされていますが、統計の講義ともなると数百人のマンモス授業であることも多く、非常勤の先生方はTA(ティーチング・アシスタント)などのサポートなしで、それぞれ工夫して教えています。