経営×統計学

統計学を武器に事業を伸ばすデータ解析ビジネス最前線(1)

リクルート

統計学のプロ社員が衛星の軌道計算に使う
解析モデルまで応用

 ウェブサービスにおけるレコメンデーション(推薦)システムに関する最新の研究成果が発表される「レコメンド世界大会」。2012年にアイルランドのダブリンで開かれた大会に、リクルートは自社のデータ分析専門家「データサイエンティスト」を送り込んだ。

 リクルートは、個々の顧客に合わせて適切な情報を薦めるレコメンデーションシステムや、広告宣伝コストの効率化に統計学の理論を取り入れることで、成果を挙げている。その核となるのがデータサイエンティストたちなのだ。

 例えば住宅情報ポータルサイト「SUUMO」。月間約930万人の訪問者数を誇り、家探しをする誰もが利用する国内最大のサービスとなっている。SUUMOでデータマーケティングを担当しているCRMチームは、業務委託を含め十数人からなる。ここ数年、社内異動や中途・新卒採用で統計学のプロを集めてきた。

月間約930万人の訪問者数を誇る「SUUMO」。家探しをする人はほぼ全員利用するという巨大サイトだ
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 SUUMOは、一言でいえば不動産の物件情報と、客をマッチングさせるビジネスである。不動産会社に広告枠を販売し、さらに成約すれば収益が加わる。一方でリクルート側には、客をサイトや物件情報に呼び込むための広告宣伝費やマッチングを高める施策といったプロモーションコストがかかる。最小限のコストでマッチングを実現し、収益を最大化するモデルを統計学的なアプローチでつくり上げるのが、CRMチームである。

 統計学の国際会議で得た最新の研究成果などから、新しいロジックを考えては試す。例えば、広告宣伝費の予算配分を最適化するための予測シミュレータには、「状態空間モデル」という解析モデルを採用している。空気抵抗や気象条件など、膨大な変数が存在する空間を通過して目標の場所までたどり着く、衛星やロケットの軌道計算に使われている予測モデルだ。

 レコメンド技術の研究にも力を入れる。レコメンドといえばアマゾンが有名だが、本を薦めるのと不動産を薦めるのとでは、ロジックの組み方がまったく違うという。

 例えば本なら、漫画が好きか、ビジネス書が好きかといった単純なロジックでもある程度お薦めを言い当てられる。しかし不動産の場合は、「一戸建てを探している人は8割方が現在と同じエリアを探す」「マンションなら、男性は通勤の便利さ、女性は安全性を重視する」といった特有の要素が入ってくる。

 何より、アマゾンのように“使えば使うほどお薦めの精度が上がる”といった悠長な仕組みにはできない。住宅売買の客なら3~6カ月、賃貸物件を探す客なら2週間で決めるのが普通。しかも、決まればしばらくは利用しないというのが住宅情報サイトの特徴。1発目から最適な物件をお薦めできなければ意味がないのだ。

 こうしたデータサイエンティストたちを率いる川本広二・リクルート住宅カンパニーSUUMOネット推進部部長は、「統計学の知識もさることながら、大学の研究者が話す内容を自分たちのビジネスにつなげていくことができ、ビジネスのこと、マーケットのことをわかった上で、さまざまな仮説を立てられる」と、メンバーたちの仕事ぶりに舌を巻いている。

 一方で川本部長は、自分自身は文系だと断った上で、「データサイエンティストは必ず人気商売になる。そして人数は絶対的に少ない。そういう職種の人材をいかに評価し、活用していくかは難しい問題。組織が彼らを正しく評価できなければ、人材の定着は難しいだろう」と語る。ビッグデータ時代のスーパースターを、生かすも殺すも組織次第ということだ。

(記事転載元:『週刊ダイヤモンド』2013年3月30日号特集「最強の武器 統計学」P58~61/編集スタッフ:清水量介、鈴木崇久、深澤 献、藤田章夫)

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週刊ダイヤモンド編集部


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