平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす「二地域居住」という暮らし方。「田舎素人」の一家が始めた、「週末だけ田舎暮らし」という変わったライフスタイルは、里山の住民から無事、受け入れられるのか? 彼らが感じた都会の気楽さとは違う、田舎ならではの「つながる安らぎ」とは?二地域居住の新しいバイブル『週末は田舎暮らし』から、一部を抜粋して紹介する。
◆これまでのあらすじ◆
東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。「田舎素人」だが、「二地域居住」に憧れてる一家。念願の田舎の家を手に入れ、都会と田舎の週末だけの往復生活がスタート。誰も知り合いのいない里山の集落で、奇妙なライフスタイルの新参者一家は果たして受け入れられるのだろうか……。
うちは「ウエンダイ」
生まれた場所でも、育った場所でも、親の実家でもない場所に、突然居を構える。都市生活では転居も入居もごくごく普通のことですが、わたしたちのいる南房総の里山の集落では、新しく入ってくる人は滅多にいないのが現状です。
住む人が変わらない場所。つまり、住む人が変わったとき、それは集落にとってひとつの事件になっていたのだと思います。
はじめてそれを知ったのは、週末を南房総で暮らしはじめて間もないころ、一番近いお店に行ってみよう、と出かけたときのことでした。
もちろん徒歩圏内にはお店というものはなく、県道沿いの酒屋さんが最寄り店。何かあったらここに駆けつけることになるな、ということで、商品のラインナップをチェックして、あいさつもしてみようと思ったのです。
足りなくなっていた調味料やお菓子などを手に取り、すみませ~んとお店の人に声をかけると、「ひょっとして、あの家に今度入ったご家族?」と単刀直入に聞いてくるおばさん。
え……?
な、なぜご存知なんですか
「今度東京の人がこっちに越してくるんだって、みんな知ってるよう。移り住むんじゃないの?週末だけ?こどもの学校はこっち?」
い、いや、今のところ週末にこちらで過ごそうと思っていて、ゆくゆくは移住もあるかもしれないんですけど、えーと、今は親と東京で同居していて、と不意打ちを食らったわたしは、しどろもどろです。
おばさんは「早くこっちにちゃんと越してくるといいねえ、かわいいねえ、こどもがいるってのはいいねえ。あ、ここは日曜日は休みだからね」と教えてくれました。
お店を出たわたしは、しばらくぼぉーっとしていました。
県道を挟んでしばらく行ったところにあるお店なのに、あいさつをするまでもなく言い当てられてしまった。誰からどうやって聞いて知ったのだろう?町内会みたいなところで、わたしたちについて話されたのかしら?あるいは、噂話がどんどん広がってる?
思えば、集落の界隈で袖ヶ浦ナンバー以外の車はほとんど見かけません。
わたしたちは、都市生活と同じように名乗らない限りはわたしたちが何者かは分かるはずがないと思って過ごしていましたが、よく考えれば品川ナンバーでうろうろしているだけでずいぶん目立っていたことに気づきました。
さらに、運転していると、時々じっとこちらを見る視線を感じることがあったのですが、それは単に「見慣れない車だな」と思われているだけでなく「これがあの、週末だけこっちに来る家族だな」ということで見られているのかもしれない、とも気づきました。