平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす。東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。「田舎素人」の一家が始めた「二地域居住」。田舎に購入した築百数十年の古民家を、彼らが手を入れずそのまま住む理由とは?大きな注目を集める「田舎暮らし」の新しいバイブル『週末は田舎暮らし』から、一部を抜粋して紹介する。

◆これまでのあらすじ◆
東京出身の「田舎素人」だが、二地域居住に憧れる一家。とうとうその第一歩「田舎の家」を手に入れた。苦労して手に入れた田舎の我が家は、築百数十年の古民家。都会とは違う暮らしを求めて引っ越してきた一家は、なぜリフォームせずに、そこに暮らそうと決断したのか。

家には手を入れず、このままで住もう

「ママもごろごろしよ!ねー、ごろごろしよ!」

 ナチュラルハイ状態のこどもたちに裾をひっぱられ、わたしも無理矢理ごろごろ大会に引きずり込まれました。

 ごろごろごろごろ……畳の感触が、実に気持ちいい。

 まとわりついてくるこどもたちに「ねえ、ここ、ホントにウチになったんだよね?決めたんだよね?」と確かめられ、「そうよ、もうずっと、ここでいいんだよ」と答えながら、ひそかに心に決めたことがあります。

 この家は、極力手を入れずに、このままで住もう。

 東京でのライフスタイルやセンスを嵌はめ込むのではなく、昔からここで寝起きして、日々を紡ぎ、年月を重ねてきた農家の人々の暮らしにできるだけ寄り添ってみよう、と。

 なので、小さな引っ越しが終わった後は、傷んだ壁を塗ってフガフガの床板を張り直すくらいの手入れにとどめました。

「建築の仕事していたのに、ずいぶんあっさりしてるな。なんか設計したくないのか?」と夫から不思議がられましたが、「このままで不都合ないじゃない?家計にとってもその方がいいでしょ?」と言うと「そうだな」で終了。

 いや、とりたてて贅沢をしようと思わずとも、室内の快適性を求めるとしたらそれこそ改善点はうんとあります。

 例えば、この家はいわゆる高断熱高気密住宅の、真逆。超低気密で、超低断熱です。廊下は床板1枚で、気がつけば板と板の隙間から笹の芽がニョキッと見えることさえある状態。

 建具はアルミサッシに替わっていますが、古い家に後から取り付けたためか、閉め切っても三角形の隙間あり。そのため、冬はまるっきり外気温と同じ室温となり、夜中に寒すぎて目が覚め「鼻筋が凍る、ってこういうことなんだなあ」としみじみ思うほど冷え込みます。

 この風通しのよさ、夏には実に快適なのですが、いかんせん、南房総とはいえ中山間地の冬の冷え込みは大変厳しく最低気温は東京より5度以上低いことがあるため、家の中でも白い息は当たり前という塩梅です。

 虫だって適当に出入り自由です。春になればアリが列をなし、黒いベンジョバチはなぜかいつもトイレの中で飛び回り、巨大なアシダカグモも誇らしげな勲章のように壁にはりついています。そのかわり、ゴキブリはなぜかほとんど見かけません。