それからほどなくして、集落の会がありました。年度の会計報告や地域の情報交換などをする自治会のようなもので、参加者は初老の男性から、わたしと同じ歳くらいの男性まで、つまるところほとんど男性。すでにお酒を酌み交わしている段階で「しつれいします~」と部屋に入り、子連れでぞろぞろとごあいさつしました。
「東京から来ました。週末しかおりませんが、なるべくご迷惑をかけないように、頑張ります。どうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げたこの集会、今思えば本当に緊張していました。わたしたちは一体受け入れてもらえるんだろうか、と。
ちょっとお酒もいただき、むずむずと動くこどもたちを制しながら一生懸命に話をしたことはなんとなく覚えているのですが、話しかけてくださる方の言葉が三割くらい聞き取れず、全神経を耳に集めて懸命に応じている一方でニイニやポチンはかまわずスルメをかじってカルピスをこぼし、「ええから、ええから」とまたカルピスがなみなみと注がれ、こどもは三芳小か?いつ本当にこっち越してくるつもりか?農地の管理やらなにやら大丈夫か?とたくさん質問されました。
若い人が入ってくれるなんてなあ!こどもなんて久しぶりだ!といった声掛けもたくさんいただきました。もう担ぎ手もいないし、祭りもなくなっちまったけど、こりゃ再開できるかもしれないぞ!などとも。
なんだかわたしは、ここに週末にしかいないことが申し訳なくなってきました。例えば、マンションの隣室に誰か越してきたとしても、その部屋がどんな使われ方をするのか、入居者はどんなライフスタイルなのかなんて知らなくても済むし、影響を与え合うこともそうはないものです。
でもここでは、わたしたちがワルモノでまったく農地の管理をしなければ、周囲の農家さんたちは大変な影響を受けますし、もししっかり地域に根づいて働けば、集落の活性はぐんと高まります。なのに、週末だけしかいないのです!
いろいろな質問に対してわたしは、長いこと週末を過ごす田舎を探していて、この場所と巡り合い、本当に気に入ってしまったことや、こどもたちをのびのび自然の中で遊ばせてやりたいことや、仕事や義母との同居の都合で完全にこちらに引っ越すのは難しい状況にあることなどを、できる限りの誠意をもって話しました。
つ、つらい……。
のんきじゃないけど、のんきだと思われちゃうだろうな……。
すると、初老の男性が「まあ!堅苦しいことは抜きでな。まずは屋号を覚えてな。あんたんとこは『ウエンダイ』だから」と言いながらメモ帳と鉛筆を持ってきました。
ウエンダイ?
「そう。ウエンダイ。上の台にある家だから、ウエンダイ」と、メモ帳には地図が描かれ、周辺の家が書き込まれます。
「おたくの下のうちは、ゲンザエム。こっちがシンタク。そんでこっちがオオエンキョ。昔からこのへんでは、名前で呼ぶより屋号で呼び合ってるんですよ」