平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす「二地域居住」という新しい暮らし方。「田舎素人」の一家が、直面する困難を乗り越えていくドタバタ奮闘記。田舎には先祖代々の家や土地が多いが、都会者でもそうした土地を買えるのだろうか?二地域居住の新しいバイブル『週末は田舎暮らし』から、一部を抜粋して紹介する。
◆これまでのあらすじ◆
東京出身の「田舎素人」だが、「二地域居住」に憧れる一家。神奈川、千葉の不動産屋をめぐり歩き、ようやく「運命の土地」と出合う。一家の熱意にほだされ、不動産屋も土地を手に入れるために、とことん協力をしてくれるようになった。そんななか、彼らは生涯忘れられない人たちと知り合うことに……。
売り主さんに会ってこそ、分かること
もうひとり、この関わりがあったからこそわたしたちの今があると言えるのは、売り主さんご本人との対面でした。
きっかけは、ちょっと知っておいてほしいという、不動産屋さんからの一本の電話です。
「売り主さんの意向では、この土地はご先祖代々守ってきたものなので、一括購入してもらいたいとのことなんです。今までもたくさん、買いたいという方が見学にいらっしゃったらしいんですが、なかなか折り合わず断ってきたようで。
あと、近隣との関係もあるので真面目に土地を使ってくれる人でなければ売りたくないと思っていらっしゃるそうです。草刈りも含め、あの広さの管理は大変なものですしね。何しろ大事になさっていた土地でしょうからね、手放すにあたりいろいろ思うところもおありだと思いますよ」
その言いにくそうな口ぶりから、売り主さんはどうやら、意に染まない売り方をしてまで手放しはしない、という強い考えがあることがわかりました。同時に、いつ行っても美しく手入れされた土地を思い浮かべ「大事になさっていた土地」という言葉がずんと胸に響きました。
わたしたちも一世一代の買い物をするかどうかで緊張しているけれど、売り主さんにとっても「先祖代々守ってきた土地を売る」のは大きな決断なはず。自分たちの条件に合うか合わないかばかり考えてきたわたしにとって、その視点に立つのはとても新鮮な感覚でした。
さらに瞬時に理解できたのは、「自分たちが決意すればいいってもんじゃない」という難しさがあること。決して、いつでも誰でもウェルカムな売り主さんではない。厳然と、こう売りたいという意思があるのです。
想像するにどうも手ごわい相手らしい売り主さんとご対面するのは、もちろん緊張することです。
しかも、そもそも不動産屋さんの仲介により「だれそれさんの土地」という匂いを消し、土地を抽象的な商品にしているものを、わざわざ生々しい関係にさかのぼるわけですから、ある意味心をすり減らすことになるだろうという予想もつきます。
それでも、条件がうまく噛み合わなければ売ってもらえない、わたしたちも買う決意もできないという膠着状態を解消するためには、不動産屋さんを介して伝え合うより顔を見て話した方がきっといいはずと、わたしたちは判断しました。
ぐちゃぐちゃ悩む前に、話せば、分かる。
そしてもし、分かりあえずにご破算になっても諦めもつくさと、不動産屋さんにお願いして、まさにこの物件の家で売り主さんとお会いする手はずを整えてもらいました。