洋服、トロピカルなジュース、雑貨、鶏のから揚げ……さまざまな店が密集する、なんともタイらしい屋台街の一角に、すし屋台「ワッタナーすし」はある。
「スシー、マイカ?(おすしいかがですか?)」
店頭で看板娘のように声を上げて客を呼んでいるのが奥さん、その背後ですしを握っているのが旦那さんだ。ワッタナー夫妻は地下鉄カンペーン・ペッ駅に近いこの屋台街で、もう3年ほどすしの屋台を開いている。
見ていると、次々にお客が現れては買っていく。店先に並べられたすしのなかから好みのものを選び、トングでつかんでプラスチックのパックに入れていく。まるでパン屋のようなスタイルだ。バイクタクシーを活用したデリバリーにも対応している。
値段は1個5~10バーツ(約15~30円)。安食堂なら一食40バーツ前後(約120円)なので、お腹いっぱいにしようと思ったらすしはやや割高になるが、それでも皆よく買っていく。
しかし売られているものは、日本人から見れば、どれも「すし」とはほど遠い。ツナの入ったシャリのボールにトビコをまぶせたもの。軍艦に卵焼きを乗せてマヨネーズをたっぷりとかけたもの。茎わかめ。激辛に煮付けた貝ひも。それらしきネタはサーモンと海老くらいだが、こちらもやはり、トビコやマヨネーズがトッピングされている。
これがタイ流のすしなのだ。
この10年ほどで、日本食はタイ人の暮らしにすっかり定着した。ラーメン、牛丼、和定食、和風の居酒屋、緑茶、とんかつ……和風のカレーを給食に出す学校まで出てきた。もちろんすしもそのひとつで、本格的な高級店から回転ずしまでそろう。