観光こそ日本経済再生の切り札だ!

 これからの日本は観光大国として生きていくのだと観光庁長官の溝畑宏さんは宣言した。20xx年の訪日外国人誘致目標は3000万人! 09年の4倍以上を目指す。壮大な誘致計画は達成できるのか!?

日本は世界屈指の観光資源大国なのだ!

 長官のテンションはすごく高かった。我こそは観光大使! 世界に日本を売り込むためには、なんでもやりまっせ、という勢い。長官はそう遠くない20xx年までに観光客を今の4倍に増やすという。本気なんですか?

 「本気ですよ。日本には魅力的な観光資源がたくさんあるでしょ。縦に長い国だから北の流氷から南の珊瑚礁まで一度に見られます。また治安が良く、国民は礼儀正しい。水が豊富で繊細な食文化がある。世界屈指のポテンシャルを秘めている」

 そのわりに、2009年の訪日外国人数は679万人で世界33位と冴えない順位。なぜですか。

 「観光立国としての取り組みが遅れたせいです。首位フランスの7040万人に比べて10分の1以下。でもこれからは違う。中国を中心にアジア各国から観光客をどんどん誘致します」

 だけどここで大疑問。技術立国日本はこれまで以上に技を磨き、輸出大国として生きることもできるはず。なぜいまから観光大国?

観光客が4倍になるとトヨタ4社分が出現したのと同じことに!
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 「民主党が観光を成長戦略に位置づけたのは、財政が厳しく大型財政支出をしにくいという背景があるから。観光なら今ある資源を商品化することで世界にアピールできる。また観光は宿泊・飲食・輸送・物販を伴うので経済波及効果が大きいし、地域経済を潤し雇用を活発化する効果も期待できる」

 

東京のファッションも観光客を呼ぶアイテムだ

 長官の熱弁を聞いていると、観光立国で生きるしかないと思えてくる。だけど冷静になると、お金がないのに、どんな施策が打てるのだろうと思ってしまう。

 「主に3つの施策を考えている。まず訪日外国人数3000万人を目指すための手を打つこと。同じ島国の英国が3000万人を達成しているので目標としてムリがないでしょ。2つ目は観光客の受け入れ体制強化と観光アイテムの拡大。グリーンツーリズムなどに加え、10兆円市場といわれる医療観光も活発化させたい。外国人に人気のゴルフやスキーなどのスポーツ、アジアの若い女性が注目している東京のファッションも観光アイテムとして売り込みたい」

 そういえば長官はネットアイドルのベッキー・クルーエルちゃんと一緒に「東京ガールズコレクション」に出演していた。アイドルとオジさんの取り合わせはインパクトがあったし、長官の本気が伝わってきた。

 「3つ目は国内向けですが連休の分散。例えばゴールデンウイークは全国一斉に休みになるため混雑して値段も高く観光しづらい状況でしょ。そこで日本を5ブロックに分け、祝日法を改正し、春と秋に大型連休をブロックごとに分散して取れるようにしたい」

 観光立国としての経済効果は、2008年の旅行消費額で測ると23.6兆円でトヨタ1社分の規模。将来訪日観光客数が4倍になるとトヨタが4社出現するのと同じ経済効果が期待できる。

 「日本の観光産業はまだ未成熟で伸びる余地が大きい。まさに『日出ずる国』ですよ!」

<Profile>
観光庁長官 溝畑宏さん
みぞはた・ひろし 1960年京都生まれ。東京大学法学部卒業後、自治省(現総務省)入省。大分県に出向し、大分トリニータを運営する大分フットボールクラブの運営に携わり、2004年代表取締役に就任。2010年、観光庁長官に抜擢される。

(文/山本信幸)  ※ダイヤモンド・ザイ2010年12月号に掲載