賃貸住宅の契約更新時に支払う「更新料」を定めた契約は有効か無効かが争われた訴訟で、最高裁は「高額すぎるなど特別な事情がない限り有効」との判断を示した。その上で、更新料の返還を求めた借り手の請求を棄却した。

 今回の訴訟では京都府や滋賀県の3人の賃借人が提訴し、高裁判決では「無効」2件、「有効」1件と判断が割れていたが、今回の最高裁判決で「更新料は有効」との司法判断が確定した。

 判決前の最大の注目点は、仮に最高裁で無効と判断が出た場合、「消費者金融の過払い金問題のように、過去の支払った更新料の返還請求が殺到するのか」「もしオーナーが変わっていた場合、返還義務は前のオーナーにあるのか、現在のオーナーにあるのか」という点。しかし、判決が有効と出たためそうした懸念は解消された。

 一方、有効と判断されたことで貸し主による便乗値上げの可能性を指摘する声が出てきた。判決が出た後の会見で、借り主側の弁護士は「更新料を増額したり、新たに更新料の支払いを求める貸主が増える恐れがある」と訴えた。

 だが、住宅コンサルタントの長嶋修・さくら事務所代表は、「ごく一部の人気物件を例外として、賃貸住宅市場は便乗値上げができる環境ではない。逆に更新料は廃止される方向にあるし、大半の大家もいずれは廃止されると覚悟している」と、その心配は杞憂であると指摘する。

 2008年の住宅土地統計調査では、全国の賃貸住宅空室率は過去最高の18.7%。つまり5部屋に1部屋が空室の状態。その後も供給は増えるばかりで家賃も下落傾向が止まらない。「たとえば供給過多な福岡エリアなどは、新築ワンルームの家賃が月額5万円、それが3~4年も経つと月額2万円台に下がる物件が目立つ」(長嶋代表)ほど。

 つまり、賃貸住宅市場は「買い手市場」で、ごく一部の人気物件を除けば更新料を増額できるような状態ではない。不動産投資信託(J-RIET)も、「開示情報を見ると、更新料を徴収していない物件が多い」(巻島一郎・不動産証券化協会専務理事)。

 むしろ、更新を機に賃料を下げたり、フリーレント(家賃無料)期間を設けて居住を継続してもらったりするケースがあるほどだという。「札幌では6カ月フリーレントという物件も出てきている」(長嶋代表)。

 更新料のみならず、「礼金や敷金も不透明」という批判が高まっていたが、こうした貸し手が優位な時代に作られた慣習も変わりつつある。たとえば、日本賃貸住宅管理協会は昨年から会員企業へ「めやす賃料」の表示を呼びかけている。これは、更新料、礼金、敷金などのコストを勘案した実際の月額賃料。不動産ポータルサイト最大手の「ホームズ」も、めやす賃料の掲載を開始した。

 自身もサラリーマン大家で不動産投資ブログ主催のJACK氏は「投資物件の利回り計算をする際は更新料や礼金を含まないのが常識。投資する際も、それらがゼロになっても耐えられるよう収支計算する。販売業者が提示した更新料や礼金を前提にした収入を鵜呑みにした投資家には、それらが入らず経営難に陥っているケースも少なくない」と現状を披露する。

 更新料は有効との判決は出たものの、不動産業界、貸し主ともに、更新料は消える方向で態勢を整えつつある。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)

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