電通違法残業が正式裁判に、「ブラック企業は刑事法廷」の時代

 広告大手、電通の違法残業事件にどんでん返しが待っていた。

 厚労省と検察の捜査が終わり「略式起訴」で事件は幕引きとの大方の見方を覆し、裁判所が伝家の宝刀「略式不相当」を繰り出して裁判を開かせることを決めたのだ。これまで、過剰な残業や低賃金で従業員を働かせてきた「ブラック企業」が法廷で裁きを受けてきたが、ほとんどのケースは民事訴訟。電通事件ではついに、日本を代表する大手企業が刑事事件の被告として法廷に立つことになった。

「0.02%」の衝撃
オール検察の判断に裁判所が「NO」

 7月12日午後4時すぎ、東京地裁や東京高裁などが入る東京・霞ケ関の裁判所合同庁舎2階。大手報道機関の司法記者たちが詰める司法記者クラブ内に、7月の「裁判幹事社」である日本テレビの記者から衝撃のアナウンスが流れた。

「電通事件について地裁広報より連絡。東京簡裁が本日、略式命令を相当でないと判断しました」

 数分後、報道各社が一斉にネット速報を流す。

「電通の違法残業事件で、略式起訴は『不相当』。正式裁判へ」

 検察の捜査の動きを追い、裁判の一連の流れをフォローして判決まで見届ける司法クラブの記者にとっても「略式不相当」は想定外中の想定外といっていい。

 司法統計によれば、2015年に略式起訴された刑事事件約27万件のうち、裁判所が「略式不相当」あるいは「略式不能」と判断したケースは、わずか55件、0.02%しかない。