商業資本主義、産業資本主義、情報資本主義につづき、発想資本主義という第四の時代に突入した、というビジネスデザイナーの濱口秀司さん。発想資本主義では、日本人が勝てる、と断言します。その差別化要因とは?(本記事の内容は、6/27発売の濱口秀司さん論文集『SHIFT:イノベーションの作法』の発売記念である書き下ろし序文『日本人イノベーション最強論』です)。

発想資本主義という「第四の時代」に勝つ

 現代の企業は、非連続な変化を生み出す革新(innovation)の重要性をあらためて認識しつつある。少なくとも一昔前のように、改善(improvement)のみで長期的な優位性を保つことが難しくなっているからだ。革新を起こすうえで不可欠なのが「SHIFT」である。それは、既存の事業領域や所属メンバーをコアにして商品やサービスのあり方を規定し直し、市場の新しい認知を得ることで事業価値を高める「作法」である。詳しくは論文集『SHIFT:イノベーションの作法』に譲るとして、まず前提として、いまなぜ「SHIFT」が必要なのか、考えてみたい。

濱口秀司さんが考える「“発想資本主義”という第四の時代に、日本人が勝てる理由」濱口秀司(はまぐち・ひでし)
京都大学工学部卒業後、松下電工(現パナソニック)に入社。R&Dおよび研究企画に従事後、全社戦略投資案件の意思決定分析を担当。1993年、日本初企業内イントラネットを高須賀宣氏(サイボウズ創業者)とともに考案・構築。1998年から米国のデザイン会社、Zibaに参画。1999年、世界初のUSBフラッシュメモリのコンセプトをつくり、その後数々のイノベーションをリード。パナソニック電工米国研究所上席副社長、米国ソフトウェアベンチャーCOOを経て、2009年に戦略ディレクターとしてZibaに再び参画。現在はZibaのエグゼクティブフェローを務めながら自身の実験会社「monogoto」を立ち上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスした活動を行っている。B2CからB2Bの幅広い商品・サービスの企画、製品開発、R&D戦略、価格戦略を含むマーケティング、工場の生産性向上、財務面も含めた事業・経営戦略に及ぶまで包括的な事業活動のコンサルティングを手掛ける。ドイツRedDotデザイン賞審査員。米国ポートランドとロサンゼルス在住。

 私たちは、資本主義の世界でビジネスをして生きているが、テクノロジーの進歩やグローバル化の進展によって、価値の源泉は変化してきた。

 大昔、商業資本主義の時代には、ごく単純化して言えば、時間や場所の違いを利用したビジネスモデルで儲けることができた。たとえば、南米で生産したコーヒー豆を、米国や日本に持ってくるなど、物の移動が価値を生む時代が長らくあった。

 しかし、産業資本主義の時代に入ると、製造プロセスが差別化要因となり、テクノロジーのイノベーションを、差分として商品や製造装置に埋め込むことで競争優位が保たれるようになった。

 続いて情報資本主義に入ると、情報と資金がより自由に移動し、人やアイデアに対して素早く、そしてスムーズに集まるようになった。消費者や投資家も賢くなり、技術だけでなくコンシューマーエクスペリエンスまでが揃って初めて社会的なインパクトが生まれる時代になった。ビジネスモデル、テクノロジー、コンシューマーエクスペリエンスのすべてが連携するよう、総合的に綿密に企画を設計する必要が出てきた。

 そしていま、発想資本主義ともいうべき第四の時代に入りつつある。最新の情報を持っていることは既に当たり前になり、それだけでは差別化できる価値を生み出せないため、そうした情報を独自の視点で切り取り新たなアイデアを生み続ける発想力とその実現力のセットが価値につながる。そして、これこそが、今回のテーマ「SHIFT」である。

 振り返ってみると、日本は一勝二敗である。商業資本主義時代は貿易に先行した欧州勢が強く、日本は勝てなかった。産業資本主義時代は、終盤に入ってウォークマンで世界を席巻したソニーやトヨタ自動車が世界で存在感を発揮し、日本勢が勝利したと言っていいだろう。だが情報資本主義に入った瞬間、米国のグーグルやフェイスブックなどが台頭し、日本勢はまったく歯が立たなかった。

 では迎えた発想資本主義の時代に、誰が世界にインパクトを残すことができるのか。私がここで「勝つ」と言っているのは、単なる勝敗でなく、世界中に暮らす多くの人々の生活をよりよくするような変化が起こせるか、である。おそらく大多数は、情報資本主義からの勢いで、発想資本主義時代も米国が勝利すると想像しているだろう。

 しかし、私はそうは思わない。日本こそ世界にインパクトを与えるSHIFTを起こせるはずだ。いや、資源に乏しく人口減少を迎える日本は、SHIFTを起こさなければならない。