「日本は世界で唯一戦争放棄をしている国」だと、日本国民の多くは漠然と信じ込ませられている。しかし、その認識はまったくの間違いであり、その責任は憲法学者にあるという。著書に『憲法学の病』(新潮新書)がある、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授の篠田英朗氏に詳しい話を聞いた。(清談社 福田晃広)

戦争放棄をしている国は
日本だけではない

自衛隊横須賀基地「自衛隊は違憲」とする憲法学者は少なくないが、国際法も考慮してみると、これは全くの間違いだということがわかる Photo:PIXTA

 日本国憲法9条は、1項「戦争放棄」、2項「戦力不保持」「交戦権否認」を定めた条文から構成されている。この9条が由来となり、日本国憲法は「平和憲法」と呼ばれているわけだ。

「9条は日本独自のものであり、世界に誇れる憲法」だと考えている人は、案外多いのではないだろうか。なぜなら専門家である憲法学者のなかでも、そのような口ぶりで主張する人もいるからだ。しかし、それは正確な理解ではないと篠田氏は指摘する。

「9条1項は、1928年のパリ不戦条約と1945年の国連憲章といった国際法規を前提にしてつくられたものです。互いの文言を比べてみると一目瞭然なのですが、ほぼそっくりそのまま書き写している代物。これらの国際法規範を順守するにすぎないと考えるのが妥当であり、日本だけが特別に設けている条文ではありません」

 つまり、9条1項は、国際法を守ると改めて宣言したにすぎず、世界で唯一なわけではまったくないのだ。

 また、篠田氏によれば、9条1項で定めている戦争放棄の条文とは、あくまでも国際法で違法化されている戦争を行わないことを宣言したもので、ほとんどの国の憲法に9条1項と類似した条項があるという。