中国でネット通販最大のセールが行われる「独身の日」。ECサイトでは、様々な商品に混じって、なんと競売物件も人気を集めていた。GDP成長率の鈍化、そして米中貿易戦争の影響によって、中国では今、資金繰りに窮した企業や個人が保有する不動産が、続々と競売にかけられているのだ。(ジャーナリスト 姫田小夏)

競売物件がネットで買える!
「独身の日」でも大人気

中国の不動産イメージ中国では不動産の競売サイトに関心が集まっている(写真はイメージです) Photo by Konatsu Himeda(以下同)

 中国で「独身の日」といわれる11月11日、ECサイトでは各種セールが企画されたが、今年多くの国民の関心を集めたのは「競売物件」だった。いわゆる不動産のオークションだが、中国では多くのECサイトで、個人が手軽に住宅などの競売物件を競り落とすことができる。

 競売物件とは、借入金の返済ができないなどの理由から銀行によって差し押さえられ、裁判を経て強制売却に至った不動産のことだ。日本でも競売物件の流通はあるが、「隠れた瑕疵や権利関係の複雑さなど詳細情報の取得に壁があるなど、個人はなかなか手を出しにくい」(日本の大手不動産仲介業者)といわれている。

 中国では3400の裁判所と競売サイトが連結し、全体の取り扱いの9割近い競売物件にアクセスすることができるという。中国の人々も合理的で、「人気物件を相場の6~7割程度の価格で手に入れられればお買い得」「資産形成のひとつの手段」などとし、これを受け入れているところがある。落札後に賃貸すれば高利回りを期待でき、さらにタイミングを見て売却すればキャピタルゲインを狙うこともできる。

 中国の競売物件が流動性を高めている要因は、中国が国を挙げて推進する一連のインターネット革命の効果に他ならない。

 その背景には、2013年以降、中国経済の成長鈍化により増え始めた“不良債権の山”がある。この年、中央政府は各省に資産管理会社を設立し、不良債権を買い取らせる仕組みを構築したが消化は進まず、2016年には不良債権が1兆5000億元(当時のレートで約24兆円)に膨らんだ。そこで2017年からネット取引を導入し、全国3000以上の裁判所とオークションサイトを連動させ、競売物件のスピーディな処理に着手したのである。翻せばこれも一種の“不動産の叩き売り”に違いない。

中国「競売物件」ブームの裏側、不良債権増で住宅から工場まで叩き売り地下鉄で目にするのは「広告をしませんか?」の広告ばかり

 中国の友人に最近の関心事を尋ねたところ、「失業」だという。「今、誰もが失業することを恐れている」のだそうだ。2018年から人材募集の広告が減ったという話も聞いた。今秋訪れた上海で、筆者は企業広告そのものの減少を目の当たりにした。今年まとめられた「政府工作報告」では、就職が優先政策になったともいわれている。