熊本県天草市で、新型コロナ不況でブリやマダイ、エビが売れずに苦しむ加工業者や養殖業者、お客が来なくなって従業員雇用に頭を抱えるホテルなどが協業して、魚の冷凍弁当を販売する新たなビジネスを生み出した。発案したのは5児を育てるシングルマザーだ。発生した「余剰」を、業種を超えて組み合わせて“三方良し”を実現した事例。小さな取り組みではあるが、全国で同じように苦しむ事業者も参考にできるのではないだろうか。(ダイヤモンド編集部 津本朋子)

2年かけて育てたブリが…
五輪延期も苦境に拍車

天草のブリ需要が激減して行き場を失った天草のブリ。余った魚と余剰人員を組み合わせた、新しいビジネスが誕生した 

「韓国に輸出するはずだった、2キロ級の大型マダイが全てキャンセルになった」――。

 熊本県随一の養殖魚産地である天草市。ブリやマダイなどを養殖する業者は2月から始まった「コロナ不況」に苦しんでいる。

 2月には、クルーズ船や、クルーズトレイン向けに出荷していたクルマエビが軒並みキャンセルに。「7月末までストップ」といった連絡が相次いだ。寿司屋などの外食向けや、ホテルの宴会需要なども激減している。

 日本を訪れる大勢の外国人に、国産魚のおいしさをアピールする絶好の機会だった一大イベント・東京五輪も延期となり、五輪向けに投資をした業者はさらに苦しむのではないか、との暗い観測も流れる。

「2月頃にはまだ半信半疑だったけれど、3月に入ってこれはダメだと思いました」と話すのは、天草市で魚類加工・販売を手がける株式会社クリエーション WEB PLANNINGの深川沙央里代表。父はマダイやシマアジ、ブリの養殖を行う深川水産を経営している。

 養殖業は「生き物」を扱うだけに時間もかかるし、出荷のタイミングも非常に重要だ。マダイやブリは養殖におよそ2年かかる。魚が育ったらすぐに出荷して、次を仕込まなければ損失が出る。また、マダイは5月に産卵時期を迎え、その後は身が痩せてしまうから、4月までには加工を終えなければならないなど、「最適なタイミング」を見越して需要を慎重に計算し、養殖計画を立てる。

 新型コロナは、綿密に作り上げた計画をなぎ倒してしまった。

 この八方塞がりの状況の中、深川さんはひょんなことから光を見つけた。地元の観光協会の会合で、様々な業界からの出席者が口々に苦境を吐露する中、サンタカミングホテルの社長が「宴会も宿泊もキャンセルが相次いで、スタッフを交代で休ませている」と打ち明けたとき、「じゃあ、その人たちに来てもらって、魚の加工を手伝ってもらったらどうか」とひらめいたのだ。