オンリー・イエスタデイ――つい昨日に起こった、しかも未曾有の危機に際して得た経験と教訓を、為政者たちはかくも早く忘れてしまうものなのだろうか。

 菅直人・副総理が「デフレ宣言」を行った。それを待っていたかのように、閣僚や政府内の要人たちは日本銀行に公然と追加の金融緩和措置を要求した。追い込められた日銀は、10兆円規模の金融緩和強化策を発表した。デジャヴュである。

 1990年代初頭にバブルが破裂してから日本経済は長期の低迷に陥り、私たちは戦後初めての金融危機とデフレ経済に直面した。この未曾有の危機が長引くなかで、金融政策もまた紆余曲折を辿りながら未体験ゾーンに突入した。緩和に緩和を重ね、短期金利は90年代初頭の8%台から2000年には実質ゼロに引き下げられた。翌2001年には量的緩和政策が導入され、06年まで続行された。日本経済はついに02年~03年に最悪期を脱し、景気は上向き始めた。

 では、究極の金融緩和政策が遂に効果を発揮し、景気を回復させたのだろうか。そうではない。ひと言で言えば、「金融危機の再発防止には役立ったが、景気回復には極めて限定的な貢献しかしなかった」というのが常識的総括であろう。