「お金持ちになるにはどうしたらいいのか」という疑問にこの連載ではいろんな角度から答えを示していきます。お金持ちなら誰でも知っている秘密を明かしていきます。
その疑問の答えにたどり着くには「お金」「経済」「投資」「複利」、そして「価値」について知っておく必要があります。少し難しい話も出てきますが、今は完全にわからなくても大丈夫です。
資本主義の仕組みについても、詳しく解説していきます。なぜなら、資本主義の世界では、資本主義をよく知っている人が勝つに決まっているからです。
今後の答えのない時代において、どのように考えながら生きていけばいいのか、ということもお話ししていきたいと思います。さあ、始めましょう!
(もっと詳しく知りたい人は、3月9日発売の『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)を読んでください)

コロナ リモートPhoto: Adobe Stock

「価値」とは何か?

君たちが牛丼一杯に感じる満足感は、当然のことながら君たちのその時のお腹の空き具合で異なります。死にそうなくらいお腹が空いている時に食べる600円の牛丼は、お腹がいっぱいの時に食べる5000円の焼き肉よりも美味しいかもしれません。

また、同じ600円の牛丼でも、牛肉があまり好きではないB君からすれば400円の満足感しかないかもしれません。「価値」とは君が受け取る効用(満足感)であり、君がおかれた状況によっても異なるし、他の人との比較においても全く異なるということです。

ダイソンの扇風機って面白いですよね。風を起こす羽根がないのも画期的で面白いですが、もっと面白いのはその値段です。4万円以上します。隣に並んでいる普通の扇風機が4000円なのに......。

扇風機なんて、涼しい風を送ってくれるという機能だけあればいいやと考えている人からするとありえない価格です。でも売れていますね。なぜでしょうか?この「羽根のない扇風機」には送風するという機能以外の効用があるからですね。その効用とは何でしょうか?

私は、あの近未来的なデザインにこそ別の効用があると考えています。送風するという「機能的効用」と区別して、それを「意味的効用」と呼ぶことにします。この2つの効用を足したものに人は「価値」を見出すのです。

実は身の周りを見渡すと、この「意味的効用」に裏付けられたモノがあふれています。たとえばiPhoneなどもそうですね。あれを組み立てる上で必要なパーツの部品代、作業にかかる労働コスト、宣伝等にかけた経費などを積み上げたとしても、10万円前後の定価に対して、恐らくこれらの経費はせいぜい2、3万円程度だと思います。

また、iPhoneのボディはアルミ製ですが、別に値段の高いアルミである必要はないわけです。実際、今ではガラケーと呼ばれている携帯電話のほとんどは強化プラスチックでできていました。iPhoneが、なぜアルミなのかというと、それは見た目のデザイン性以外の何物でもありません。ダサいプラスチック製よりもアルミ製の方が、はるかに高級感があるのです。それから無駄にボタンのない様式美。これこそがiPhoneの生みの親・故スティーブ・ジョブズ氏が追求した美しさであり、iPhoneに熱狂する人たちが共有する「意味的効用」なのだと考えています。

「意味的効用」が価値を持つ時代

そういう風に身の周りを見渡してみると今の日本では、「機能的効用」以外のさまざまな「意味的効用」に立脚した価値を見つけることができるでしょう。なぜか?

それはモノの時代が終わって、価値観が多様化してきたからです。

皆さんのお父さん、お母さんが子どもだった時代、モノが足りなかった時代は、モノの機能面の効用が重視されました。たとえば自動車は走るのが機能ですし、テレビは映像を映し出すのが機能です。その機能的効用に対して多くの人はお金を払いました。

機能的効用は、誰が評価してもそれほど金額にブレはありません。たとえば目の前にある軽自動車の新車価格を5人に言わせたら、恐らく100~150万円くらいの価格帯で落ち着くでしょう。「小さい車」、「実用」、「走る」、「4人乗って荷物が載せられる」、「燃費がいい」という軽自動車に対する認識は5人ともそれほど変わらず、したがって彼らが受け取る価値がそれほどブレません。その結果、「この車に払ってもいいかなぁ」と思える価格にもそれほど大きな違いが生じないのです。

でも、モノがあふれる時代になると、機能的な効用よりも意味的な効用が重視されるようになり、価値の大きな部分を占めるようになります。意味的効用は、ダイソンの羽根のない扇風機に代表されるような「スマートさ」や、iPhoneユーザーが感じる「かっこよさ」、「しっくりくる」操作性など、人の感性に訴えるものです。本来的に多様性を持ちます。

すごく「ハマる」人もいれば、まったく価値を感じない人もいるでしょう。

このことは皆さんが大人になって働く時にも重要なヒントになります。機能的効用は誰がどのように評価しようとも大きな差がつかないのであれば、意味的効用を極めるように働いた方がたくさんのお金をもらえる可能性が高いということです。

モノがあふれている現代においては、「価値」というものを「機能的効用」と「意味的効用」に分解して考えることで、自分が受け取るものが何なのかを具体的に考えるクセをつけましょう。

参考記事
「福袋」の価格に騙されてはいけない

世界を変えた小さなハコ

羽根のない扇風機はなぜ高いのか?
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)など。