デンマーク創業のブロック玩具メーカーが急成長を遂げています。プラスチックのブロックだけを扱い、かつては模倣品があふれて経営危機にも直面したレゴ。しかしその後、レゴは驚異の復活を果たします。現在の売上高は玩具業界の中で世界一。ブランド信用力も世界一。『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』では、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由について解説してもらいました。今回登場するのは、レゴを活用したワークショップ「レゴシリアスプレイ」を世の中に広めるロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツの蓮沼孝社長と、石原正雄取締役です。一般には子ども向け玩具のイメージの強いレゴが、なぜ今、企業研修で強い人気を誇っているのでしょうか(聞き手は蛯谷敏)。

チームビルディングから戦略策定まで、あの玩具が企業研修に引っ張りだこレゴシリアスプレイの現場

――現状、「レゴ シリアスプレイ」は企業の中で、どのように活用されているのでしょうか。

蓮沼孝氏(以下、蓮沼) 傾向としては外資系企業が多いのですが、「チームビルディングのために活用したい」とお声がけいただくケースは年々増えています。

 ただし、チームビルディングはあくまでもプロセスであって目的ではありません。ですからやがては会社のビジョンやミッション、あるいはそれを実現する行動に全員がコミットする目的で活用されるケースが増えています。

「レゴ シリアスプレイ」の基本は、ファシリテーターが課題を与え、それに対して参加者はレゴブロックでモデルを作り、互いの作品を説明しながら、フィードバックを得るというプロセスの繰り返しです。たったこれだけの作業なのですが、繰り返し続けていくことで、どんどんと議論のレベルがあがっていきます。

 例えば、リーダーシップについて議論をするとします。

 これまでのリーダーシップといえば、先駆けて先頭を突っ走るイメージでした。でも、僕たちがワークショップで見ているリーダーシップは、必ずしもそういう人だけではありません。先頭で引っ張る人を後ろから押す人もリーダーです。会社の中で、新しいことに飛び込むのもリーダーシップ。システムを裏方で支えるのもリーダーシップです。要するに、責務に主体性を持っているかどうかがリーダーシップだといった見方が、色々な人の意見から納得感を持って導き出せるわけです。

 1人で考えていても、ちょっとした改善案ぐらいしか出てこないようなテーマでも、みんなが一緒に考えて、そのいいとこ取りしていくと、目標のレベルを何倍にも上げることができるんです。

 ただ、最初はなかなかそのすごさを理解してもらえないんです(笑)。「そんなことがレゴでできるの?」といった反応が多いですね。けれど、1時間ほど体験してもらうと、みなさんの意見が180度変わって納得してもらえます。

――「レゴ シリアスプレイ」とほかのメソッドの最大の違いはどこにありますか?

石原正雄氏(以下、石原) やはりレゴブロックを使う点が大きな魅力だと思います。

「レゴ シリアスプレイ」の本質は、普段は見えない自分の頭の中の考えを、レゴブロックを通して見えるようにするものです。頭の中にある知識構造を、レゴブロックで再現し、それを客観的に観察します。

 その結果、自分が本当に大切にしているものだったり、足りないところは何かだったりといった事実を直感的に理解できます。これは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)発のコンストラクショニズム(構築主義)という理論がベースになっています。

 もう1つ、具体的なワークショップの特徴を言うと、我々は「100/100」という名称で呼んでいるのですが、その場の参加者全員が自分の考えを表明できる設計になっているということです。そこにいる人全員が新しい発見をして、グループとして新しい気づきを得たり、集合知を形成したりできることが大きな特徴です。

「そんなのは当たり前じゃないか」と思うかも知れませんが、普通は10人も集まったら、発言する人は限られてしまいます。声が大きい人だったり、積極的な人の発言ばかりが目立つようになるケースが少なくありません。そうなると、消極的な性格だったりする人にとっては得るものが少なくなってしまいます。

 しかし、「レゴシリアスプレイ」の場合はレゴ作品をつくることで、全員が自分の意見を言う設計になっています。普段あまり発言しない人が、とても貴重なアイデアを持っている場合もあります。「あの人の意見も聞けた」「この人はこんなことを考えているということが初めて分かった」といった声は、体験した人が多く語ってくれる感想です。

――全員が発言できるワークショップは意外と少ないのですね。

石原 レゴブロックは互いのコミュニケーションを支援するツールとしても、とても有効なんです。例えば、ワークショップ中に何かを説明する場合でも、対話する場合に必ずしも相手の目を見て話す必要がない。レゴ作品について説明して、レゴブロックを介してコミュニケーションを取ることができるからです。普段は上手に話せない人でも、自然と口が開くようになり、自信を持って話せるようになる効果があります。(2021年12月28日公開記事に続く)