デンマーク創業のブロック玩具メーカーが急成長を遂げています。プラスチックのブロックだけを扱い、かつては模倣品があふれて経営危機にも直面したレゴ。しかしその後、レゴは驚異の復活を果たします。現在の売上高は玩具業界の中で世界一。ブランド信用力も世界一。『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』では、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由について解説してもらいました。今回登場するのは、世界にたった21人しか存在しないという、レゴ認定プロビルダーの三井淳平さん。プロビルダーから見たレゴの強みとは何なのでしょうか。(聞き手は蛯谷敏)。
――三井さんは世界に21人しかいない、レゴ認定プロビルダーです。
三井淳平氏(以下、三井) レゴ認定プロ自体は大学院生だった2015年になったので、6年くらいになります。レゴ認定プロは自己申告制で、正直、どれぐらいの倍率があるのかは分からないのですが、世界中から応募者を募って、2~3年に1人、認定されるいう感じです。
評価のポイントになるのは、作品自体というよりも、それを使ってどういうビジネスをしたいかという、ビジネスモデルの比重が大きかった印象です。
私の場合、強みは巨大なレゴブロックの製作物をイベントなどに提供することなので、その活動についてプレゼンしました。レゴブロックの組み替えモデルのアプリを作って、インストラクションビジネスを提案したり、教育分野での活用みたいな話もして、私自身の活動が、レゴのブランドイメージ向上につながるということを伝えました。
――狭き門であることは間違いないですね。
三井 もともと、レゴビルダーとして生計を立てるイメージはなかったんです。レゴ認定プロにはなったものの、エンジニアになることが子どもの頃からの夢だったこともあり、大学院卒業後は大手鉄鋼メーカーに就職しました。そこでは、工場の操業にかかわる品質管理の仕事を担当しました。
現場の仕事はとてもダイナミックで楽しかったのですが、就職してから2年ほど経ったところで、レゴ関連の仕事がかなり増えてきたんです。
社会人になった後も、レゴビルダーとしての仕事は続けていて、プロジェクトベースでレゴブロックを使ったモデルを製作する仕事を請け負ったりしていました。ところが、段々と依頼が増えて、本業の片手間で製作していては間に合わない依頼が来るようになっていました。
例えば、海外からも参加者が多く訪れる国際的なイベントで、レゴブロックを使った巨大なオブジェを製作してほしいといった案件です。うれしい悲鳴ではあったのですが、一方で本業が滞ってもいけない。それで、考えた末に独立することを決めました。
――現在は、どのような活動をしているのですか?
三井 プロジェクトの数で言うと、大きなものは、年間10~20程度を続けています。イベントや常設展示の展示品の作品製作が中心です。活動する上で、やはり「レゴ認定」という面は大きいですね。企業からの依頼でも、信用してもらいやすいように思います。
最近では、レゴの日本法人との連携した活動も増えています。例えば、レゴストア向けのオブジェ製作を手掛けたり、イベントのゲストやサポーターとして参加したり。
海外では、『レゴマスターズ』というテレビ番組を放映しているのですが、そのメーンキャストを認定プロが務めているケースもあります。製品のプロモーションだけではなく、派生したいろいろなコンテンツにも関わるようになっています。レゴ認定プロの活動は、もともとは結構個人にまかせていた面が多かったのですが、最近はよりローカルなマーケットを意識した活動を奨励されるようになってきているように思います。
創作ツールとしての魅力
――三井さんにとって、レゴブロックの価値はどこにあると考えていますか。
三井 個人的には2つあると思います。1つは創作するツールとしての魅力です。
世の中にはいろいろな創作ツールがありますが、その中でもレゴブロックは、誰でも創作できるという点で、圧倒的に敷居が低い。例えば折り紙や粘土だと、手先の器用さが創作の要素として大事になってきて、イメージ通りの作品を作る妨げになる可能性があります。一方で、レゴブロックは器用さは関係なく、よりイメージに近い製作物を、誰でも作れます。
誰でも作れるということは、再現性も高いとうことです。ブロックを組み立てれば、同じものを誰でも作れます。これは学びを促進する点において、とても大事なポイントだと思います。人のまねをすることで、人間は少しずつ創造性を育んでいく面がありますから。
もう1つは、コミュニケーションツールとしての価値ですね。ブロックの組み立ては、言葉や年齢を越えて、いろいろな人と交流するきっかけを作ってくれます。言葉は分からなくても、レゴの作品を通じて、感動したり、共感したりできます。音楽や絵画と同じように、心を通わせる共通言語の魅力を備えています。
――現状、レゴブロックの製造特許は切れています。理屈上は、ブロックならレゴでなくてもそうした価値を提供できるますよね。
三井 ほかのブロックとの違いで言えば、まず製品の品質があります。手に取ってみれば、差は分かります。細かい傷が入っていないとか、角がしっかりしているとか。質感は違うと思います。
ただ、それ以上に現在のレゴの魅力を形作っているのは、売り方が大きいと思っています。最近のレゴは、ブロックだけが入ったセットよりも、「プレイテーマ」と呼ぶキャラクターやシリーズものが圧倒的に多くなっています。
「レゴ スター・ウォーズ」「レゴ マインクラフト」「レゴ スーパーマリオ」など、キャラクターとリンクさせて、レゴブロックに意味を持たせる売り方が、この20年ほどで浸透しました。テーマ性のある作品を打ち出している点が、ビジネスとしてコモディティ化を防いでいる理由の1つになっていると見ています。(2021年12月24日公開記事に続く)