令和の中小企業に送る秘訣、昭和後半の大企業の「正反対」を進めPhoto:123RF

中小企業は「新たな土俵」を作るべし

「失われた10年」という表現が「20年」を経て、ついに「30年」を超えた。しかし、その出口は一向に見えない。それは、産業人がモノカルチャー集団による大量生産という昭和の幻影を捨て切れないからではないか。後に大企業になった松下電器産業(現パナソニック)、本田技研工業、ソニーなどは、いずれも1人か2人の創業者が町工場から出発し、イノベーションで世界を席巻した。こうした企業は、いずれも同族経営のファミリー企業として成長したことを思い出す必要がある。

 鉄鋼、重電、化学、金融など当時からすでに成熟産業だった業界では、ビジネスモデルが固まっていたから、大財閥や旧国営企業の組織力があればサラリーマン経営者でも対応できた。問題は、これをまねて独創性が求められる業種にまでサラリーマン経営者が就任したことである。イノベーションは独創性、つまり、他者との違いから生まれるものであり、他者を出し抜くことだ。しかし、どの業種も同業他社との協調ばかりに気を取られ、まるで共同浴場に一緒に漬かっているかのようだ。「所有と経営の分離」が進化だと勘違いしたために、「事業の大転換」という創業に匹敵する決断ができない。

 昔は元気だった中小企業も、平成期にはイノベーションの枯渇した大企業に分け前を取られて疲弊した。これは「収奪の構造が悪い」とか「中小企業を保護せよ」ということではなく、同じ土俵に上がれば弱い者から攻められるに決まっているだけである。政治や経済が悪いのではなく、使い古された土俵に上がり続けるプレーヤー自身に問題がある。そうした姿勢が後継候補者に敬遠されて、結局、M&Aに頼らざるを得ないケースも多いのではないか。