「ラグビー型転売」の悲劇
中小企業の中には、頻繁に買収を繰り返すM&A業界にとっての「上客」がいる。こうした企業は、買収対象先の業種が比較的広く、意思決定も速いという特徴がある。M&A仲介会社にとっては、こうした企業に食い込めば次回の取引にもつながる可能性があるので、めったに出ない優良な売り案件はこうした買い手に持ち込まれやすい。
しかし、売り手にとってみれば、そうした上客が必ずしも適切な譲渡先とは限らない。それどころか、「買収慣れ」している企業の中には、公言せずとも事実上「多産多死型」のM&Aを展開しているケースもある。
ある非上場のオーナー企業A社は、業種などを限定せず、持ち込まれた案件の中から創業者が気に入った企業を毎年何社も買収しており、その数は累計で100社近くに及ぶ。本業は好調で資金潤沢なので次々に案件が持ち込まれるが、オーナーは買収後の企業経営への興味が薄く、本社の部課長クラスに子会社の社長を数社ずつ兼務させている。こうした「兼職社長」は子会社の現場に張り付くよりも、本社のパソコンで業績数値を追うことが主な業務となり、買収された従業員の士気は下がる。業績の低下した子会社は、プロ野球の戦力外通告のように定期的に売却、清算されている。