瀬戸内寂聴さん瀬戸内寂聴さん

 2021年11月に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さんが、97歳の時に上梓した『寂聴 九十七歳の遺言』(朝日新書)。そこには自身の人生における出会いや別れ、喜びや悲しみのすべてが記されており、ベストセラーとなっている。本書より、寂聴さんにとっての「愛」についての一文を一部抜粋してお届けする。

 人間が生きるとは、どういうことでしょうか。この年まで生きてきて、はっきりいえるのは、それは「愛する」ことです。誰かを愛する。そのために人間は生きているのです。

 結婚するとかしないとか、それは全く関係ない。誰かひとりでも愛する人にめぐりあう。それが一番、私たちが生きたという証しになるでしょう。

 小説家として500冊近くも本を出しました。様々な賞もたくさんもらいました。でも、そんなものよりも私の中に今も深く残っているのは、愛した人たちの思い出なのです。

 この年になるまで、好きなことを好きなようにして生きてきました。自分のしたいことは何でもして生きてきました。心残りは全くありません。でも、後悔がひとつだけあります。