「日銀はバンバンお札を発行しろ!」という人がいる。だが、お札を刷る量は、日銀に当座預金を持つ民間金融機関の需要、つまりは、みなさんのような個人や企業のニーズによって決まる。しかも、個人も企業も、預金残高以上の額は引き出せない。日銀がバンバンお札を刷ったところで、その結果は…?

 昨年末あたりから、盛んに「日銀はお札をバンバン刷ればいいんだ」などという声が聞こえてくる。

 しかしちなみに言うと、残念ながら、お札を刷っているのは日本銀行ではない。

 お札を刷っているのは、独立行政法人国立印刷局(2003年4月までは財務省印刷局)だ。お札の正式名称を「日本銀行券」というが、それは日本銀行が「発行」を行うからである。お札は独立行政法人国立印刷局で「印刷」された後、日本銀行に持ち込まれ、日本銀行の本支店から出たところで「発行」されたことになる。お札は、日本銀行法第46条に基づき、日本銀行が独占的に発行することになっている。

「ヘリクツは分かった!印刷していないのは日銀でも、発行しているのが日銀なら、日銀はバンバンお札を発行すればいいじゃないか!」という声が聞こえてきそうだ。

 しかし、お札は、皆さんがATMから引き出すときに備えて、各銀行が日本銀行にある自らの当座預金から引き出すものだ。発行したお札が日本銀行の本支店から出ていくかどうかは、日銀でなく、みなさんの需要を勘案した民間金融機関が決めるのである。そして、みなさんが銀行口座に保有している金額以上のお札を引き出せないのと同様に、民間銀行も日銀にある自行の当座預金残高以上のお札は引き出せないのである。

 「日銀がもっとお札を刷れば(発行すれば)いいんだ!」と主張する人の多くは、この点を勘違いしているのではないだろうか。

 金本位制の時代は金(キン)を裏付けにお札が発行されていたが、今は預金を裏付けにお札が発行されている。単純に言えば、預金を持っていない人はお札を引き出せないのである。つまり、日本銀行も民間の金融機関も、自行に預金を預けていない人・会社・銀行に対して、お札は渡せない。