以前、ある会合で中小企業の経営者の方が「無尽蔵にやるとインフレになるから駄目だが」と前置きした上で、「日銀は一度きりと決めて、ひとりにつき100万円くらいの札束を配ってみたらどうか」というアイデアを提案された。しかし、札束を自らの意思で配るという機能も、日本銀行にはない。

 もし、こうしたアイデアを実現しようとすれば、政府の口座から、民間金融機関の口座に資金を払い出し、民間金融機関が一人ひとりの口座に資金を払い込むか、何らかの証明書・通知書を持ってきた個人に資金を払い出すといった方法を採るしかあるまい。こうした施策はあくまで「財政支出(国や地方自治体の支出)」であって、日本銀行は結果として預金が増加して口座からお金を引き出そうとする人に対し、発券銀行としてお札の引き渡しを手伝うにすぎない。

 つまり、日本銀行の仕事のひとつである「お札の発行」=「発券」という仕事は、日本銀行の意思で行うものではなく、民間金融機関の要請(つまり、みなさんの要請)に応じて、お札を発行することなのである。そして、その元になる資金は日本銀行の資金ではなく、民間銀行の当座預金(みなさんの預金)なのである。繰り返しになるが、民間銀行は皆さんの預金の範囲内でしかお札を渡してはくれない。したがって「日本銀行がバンバンお札を発行すればよい」と言われても、何の資金を取り崩して「バンバン発行」すればいいのか分からないし、結果としてみなさんの財布の中の1万円札が増えるわけでもない。

量的緩和政策とは何の量を増やしているのか?

 このような説明をすると、金融政策や経済に詳しい人たちは、「日銀がお金をバンバン刷れば(発行すれば)いい、というのは比喩的な表現であって、実際に言いたいのは、日銀は量的緩和をもっと積極的にやって市場に資金を供給すべき、という点だ」と抗弁する。

 ここで出てくる「量的緩和政策」は、近年、米国をはじめ他国でも行われているが、いったい何の量を増やすことなのだろうか?