日本最古の私立医科大が「早稲田」にだけ学校推薦枠を設けた3つの理由日本医科大学の前身となる「済生学舎(さいせいがくしゃ)」創立者の長谷川泰(右)と同校を1897年に卒業した野口英世博士の銅像が並ぶ

大学創設から100年、その前身となる済生学舎の設立から150年を迎えた日本医科大学が、早稲田大学の付属・系属校にだけ学校推薦枠を設けているのはなぜか。「鉄緑会」の受験対策だけでは補えない大切なものとは何か。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

弦間昭彦(げんま・あきひこ)
日本医科大学学長

弦間昭彦

1956年東京生まれ。日本医科大学学長。83年日本医科大学医学部卒業、89年同大学院修了。98年同大学講師、2004年助教授、13年医学部長、15年から現職。専門は呼吸器病学、臨床腫瘍学。元日本肺癌学会会長、元日本癌治療学会会長、元日本呼吸器学会会長。

学校推薦枠はなぜ「早稲田」からだけなのか

――日本医科大学は1926年の大学創設から100年を迎えた日本最古で、私立医科大学御三家の一つと伺っています。

弦間 前身となる済生学舎(さいせいがくしゃ)を長谷川泰が創設したのが1876年のことで、医師の教育機関として150年の長い歴史を持っています。

――その日医大が、早稲田大学の付属・系属校にだけ学校推薦枠を設けていると早稲田の先生に伺いました。それはなぜなのでしょう。

弦間 これは経営とは関係ないですよ(笑)。これからの日本ということを考えればベストの組み合わせで、それは早稲田と日医大がいろいろなことを協力していくのは大変にいいことではないか。その一つとして、早稲田で育った人たちが医師になる道はどうかと考えました。

――早稲田大学とは2009年に包括協定を締結し、20年には実質的な研究連携への合意もしています。系列の高校とは高大接続連携協定も結んでいますね。

弦間 一般選抜で入ってくる進学校からの学生は十分にいますので、それ以外の学生を確保したいと考えました。まずは100%内部進学ができる早慶の系列校だろうと。こうした学校の生徒には、学力のポテンシャルとともに幅広い教養があります。慶應義塾大学には医学部がありますので、私の方から早稲田大学に話しに行きました。

――就任して早々、田中愛治・早稲田大学総長は医学部をつくりたがっていました。2期目には諦めたようですが。

弦間 田中総長は「中高の校長に話してみる」と。その結果、付属校の早稲田大学高等学院と早稲田大学本庄高等学院、系属校の早稲田実業学校に各2人の学校推薦枠を設けることになりました。

――合計6人の学校推薦枠は医学部医学科の中では大きいですね。しかも早稲田の系列校のみに設けた理由の一つは学力のポテンシャルだとして、他の理由は何だったのでしょうか。

弦間 私立医科大・医学部医学科合格率の高い鉄緑会などで、進学校の人はストイックに学ぶトレーニングはかなりやっている。皆さん優秀だとは思うのですが、必死に勉強していて、部活動にのめりこむとか、いわゆる普通の高校生活を送っている人は少ない。

――授業が終わると、東京なら代々木駅に直行していますから。

弦間 厳しい受験対策をしてきたような人たちには受験に関係のない本を読む時間がありません。人間関係もどうしても限られます。普通の高校生活を送っている、付属校の教養のある人を採りたいと思ったところ、早稲田がぴったりでした。例えば、精神科志望の生徒は「フロイト」や「木村敏」を読んでいました。また、医師に向いていないような人は指定校推薦だときちんと見てもらえるので安心です。長い目で見ると、早稲田から入った学生はいい医師になると思いますよ。

――内部進学で大学受験がありませんから、受験勉強だけでは身に付かない幅広い教養が二つ目の理由となりますか。いつから学校推薦を始めたのでしょう。

弦間 2022年が1期生となります。