それを説明する前に、そもそも「本来の」金融政策とは何か、確認しておこう。

 民間金融機関であるA行、B行、C行、D行…が日本銀行に有する当座預金口座間では、毎日頻繁に資金のやり取りが行われている。前述のように個人の送金のようなものであれば小口だが、実際には企業の大口の送金なども頻繁に行われている。そうなると、ある銀行の当座預金の資金が少なくなって、ほかの銀行・金融機関から借り入れる必要が生じる場合がある。こうした短期的な資金の貸し借りをするマーケットはコール市場と呼ばれ、この資金のやり取りも、日本銀行にある各行の当座預金口座間で行われる。

 日本銀行は毎日のオペレーションを通じて、日本銀行に各民間金融機関が保有する当座預金の総額を調整できる。このことは何を意味するのか。日本銀行が資金を大量に供給すると、資金を借りたい側の銀行に余裕が生まれるため、貸し借りの時に発生する金利が低下する。逆に、日本銀行が資金を十分に供給しないと、銀行は必要な資金を借りられなくなるかもしれないと焦るため金利が上昇する。つまり、日本銀行は各行が保有する当座預金の総額を調整することで、短期金利(無担保コールレートのオーバーナイト物と呼ぶ。簡単に言えば、担保なしに一晩だけ貸し借りする時の金利)の水準を調節できる。これが、「本来の」金融政策である。

 日本銀行が調節する対象としている短期金利は、政策金利とも呼ばれる。これまで引き下げが繰り返し行われてきた結果、現在では既に「0~0.1%程度」と“実質的にゼロ”金利になっている。政策金利は2008年12月に0.3%から0.1%前後に引き下げられ、2010年10月に0~0.1%に変更された。

 金利がゼロになってしまうと、中央銀行の金融政策で打てる手は限られてしまう。そこで実施されるようになったのが、前述した「量的緩和政策」である。

 この量的緩和政策は今ではFRB(米連邦準備制度理事会)なども行っているが、日本では2001年3月~2006年3月に行われた。何を増やしているかというと、日本銀行の中に各民間金融機関が保有する当座預金の残高を増やしているのである。しかし、当然ながら、この資金は日本銀行が各銀行・金融機関に貸し出しているのであって、タダであげるわけではない。