では、なぜ量的緩和政策を行うのだろう。
それは、日本銀行内にある民間金融機関の当座預金残高が増加すれば、民間銀行はその資金を何らかのかたちで運用するだろうとの目論みがあるからだ。最も期待されるのは、貸し出しだ。銀行の手元に十分キャッシュがあれば、銀行が積極的に企業や個人に貸し出すだろうと期待されているのだ。
しかし、日本銀行の中に保有する資金が多くなったからといって、企業や個人からの借り入れ需要が強くならなければ、貸出金は増えない。目下、企業は借り入れを増やすどころか、返済しようと励んでいる。個人も借り入れ意欲は強くない。将来に対する不安が漠然とある中で、借り入れまでして投資する心理的余裕がないのである。
最近はこうした量的緩和政策がさらに進んで、黒田東彦・新総裁のもと、超長期債を含む国債や社債のほか、ETF(証券取引所で取引される投資信託)等の資産を購入することで量的緩和を進めていこうとしている。ただし、日本銀行が国債の購入額を増加させるだけであれば、従来の量的緩和政策と特に大きな違いはないだろう。
(次回は4月23日公開です)
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