安倍総理は昨年12月26日、突如靖国神社に参拝した。これに対して中国、韓国ばかりか米国までが“disappointed”(失望)という言葉を使って批判。中国包囲網どころか逆に日本包囲網という様相を呈した。「資本主義vs社会主義」という冷戦時代の世界観から脱却できず、ソ連の後任に中国を擬し「日米同盟強化で中国に対抗」しようという認識は、もはや時代遅れである。

“disappointed”という言葉の重み

 安倍総理は昨年12月26日、突如靖国神社に参拝した。これに対し米国政府はただちに「合衆国は日本の指導者が近隣諸国との緊張を激化させる行動を取ったことに失望している」との非難声明を発表した。米国政府は1昨年12月に安倍氏が再び総理大臣に就任以来同氏の右傾化路線に警戒の目を向け、冷淡な態度を取ってきたが、ついに公然と非難声明を出すに至った。米国は中国との関係強化のために、日本の右派とは一線を画していることを中国に向けて表明したものと見られる。米国が日本よりも中国の意向を重視する姿勢を示したことは、日本の対外政策、安全保障にとり歴史的転換点となるかもしれない。

 “disappointed”(失望)と言う語は上司が部下に対し「君にはがっかりしたよ」と言う風に使われ、突き放した気分が含まれる。対等な相手、例えば他国、他社などへの苦情、抗議では“regret”(遺憾とする)の語を使うのが一般的だが、これが事務的表現なのに対し“disappointed”は怒りの感情を交えた叱責の語感がある。日本政府側では「在京の米大使館が出しただけ。遺憾とは言っていない」と言いつくろう声もあったが、大使館が一存でこんな声明を出せる訳がなく、間もなく米国務省が同文の声明をだした。

米国の安倍首相に対する危惧

 私が知る限りでは、米国が安倍氏に警戒心を抱いたのは2002年9月に小泉首相が訪朝し金正日総書記と会談、「平壌宣言」で日朝の国交正常化や「核問題に関する全ての国際的合意の順守」(すなわち核開発の中止)などを決めた直後からだったと思う。安倍氏は当時官房副長官で平壌にも同行したが、拉致問題から北朝鮮に対して最強硬派となり、平壌宣言の実施をはかった福田康夫官房長官と対立した。その頃米国の記者や、情報機関と関わりのありそうな研究所の研究員が来日し、次々と私に会いに来て「拉致問題で騒ぐ人々の意図は何か」と同じことを尋ねた。「単なる同情心、拉致事件に対する怒りだけで、特別の意図はない」と答えても納得しない。