「女子高生社長」として有名な椎木里佳さん。パパは「鷹の爪」で有名なコンテンツ会社「ディー・エル・イー」の椎木隆太社長です。

 里佳さんが、上場企業の社長であるパパに「経営」のことを聞く企画。今回は学生起業のすすめ。起業は若ければ若いほどいい、と椎木隆太社長。さて、その理由は…?

(取材・構成:佐藤智、竹村俊介、撮影:宇佐見利明)

 【第1回から読む】

若いときの起業はどう転んでもプラス

パパ もう一回、人生やり直せるなら、絶対、学生起業するけどね。リスクがめちゃくちゃ少ないじゃん。

里佳 たしかにね。家もあるし、食事も出てくるし。

「パパを見てて『すごい楽しそうだなあ』<br /> って思ったんだ」

パパ 学生が失敗するなんて当たり前だし。中学校で起業したら、当然目立つし。だからいいことづくし。

 今は大学生で起業する人も多くなったけど、高校生とか中学生とかでもぜんぜんいいと思う。やり直しのきくタイミング、失敗してもなんともないタイミングでね。

里佳 パパが起業したのいつ?

パパ 34歳。大企業に10年勤めて、しかも子どもがふたりいるときだからね。これ、失敗したら、すごいリスクだよ。

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 そう考えると、若いうちに起業してみて、失敗したり、向いてないなと思ったら普通に就職しましょうっていうのは全然リスクがない。むしろ、すべての人におすすめ。だって、起業した上でサラリーマンになったら、その経験って絶対生きてくるからね。

里佳 そうなんだ。

パパ リスクのないときに、数十万だけ借金して、起業してみる。そこで「どういう難しさがあるのか」とか「起業で成功する人ってどれだけ運や実力があるか」を思い知ってもいい。うまくいったら、そのまま続ければいいし。すごくいいことだらけじゃないかって、僕は思うよ。

里佳 どっちにしてもプラスだね。

パパ そうそう。どう転んでもいいんだから。

里佳 じゃあ、いきなり大企業に入るのは反対?

パパ うーん、そうは言ってないけど……。

 パパだって大企業に10年勤めたしね。ようは、両方知っておくといいってこと。

「パパを見てて『すごい楽しそうだなあ』<br /> って思ったんだ」

 僕は日本でビジネス経験があって、海外で5年間の駐在経験がある。それに、ハードウエア、つまりテレビとかビデオとかを売っていた時期があって、ソフトウエア、つまりエンターテインメントでアニメーションとかのビジネスもやっていた。この両方の経験があって、それがすごくよかった。

「国内と国外」「大企業とベンチャー」「ハードとソフト」みたいな。その両方を見るのって、これだけ変化の大きい時代にはすごく大切だと思うよ。

里佳 いろいろ経験した方がいいんだね。

パパ そうそう。里佳にだけじゃなくて、いろんな人に「将来どうしたらいいか?」って聞かれたときに、両方経験したらすごく面白いと思う、って言ってる。大企業とベンチャー、それぞれよさがあって。でも、最初に経験するのは、僕はベンチャーのほうがいいんじゃないかなと思うよ。

里佳 大きい会社で勉強してから、っていうのは?

パパ ベンチャーって本当に人が足りないんだよ。だから、社員みんなが、一人で3人分くらいの大活躍をしないと会社が回らない。ものすごく忙しい。その中で毎日1000本ノック受けて、追い込まれたりしながらものすごく鍛えられて、「企画から完成」「プランから実行」まで、自分でやらなきゃいけない範囲がすごく広い。

 大企業って、企画からあと始末までやるって、なかなかない。ある程度、出世しない限りはね。「企画だけね」とか、「あと始末だけね」とか。だから、まずは全部を俯瞰して見られる経験をしたほうがいいんじゃないかな。

里佳 先に全部経験できるほうがいいんだ。

パパ 血尿が出るぐらいのハードな経験って若いころにしかできないし。いろいろ経験する中で、脳の筋肉とか、胆力とか、マルチな才能とか、土壇場に出るパワーが蓄えられるのね。そういう人は、大企業の人たちからすると「この人は、なんでもできるスーパーマンだ」って思われるんだよ。里佳はこうやってベンチャーやってるけど、本当にそういう経験って、いろんなところに生きてくると思うよ。

里佳 がんばりまーす!

 

「ウンコ事件」が起業の原点!?

パパ まあ、それにしても、はじめての起業にしては、怖がらずによくやってると思うよ。

里佳 パパを見てきたからね。

 パパが起業したのって、私が3歳くらいのときだったよね? 私が物心ついたときから、ずっとひとりで家の物置で仕事をしているのとか見てたから、それがすごくナチュラルなことに見えて。

「パパを見てて『すごい楽しそうだなあ』<br /> って思ったんだ」

 大きな会社のサラリーマンだったら、7時とか8時とかに帰ってきて、家でゴロゴロして、テレビを見てるみたいな感じなんだろうけど、そういうことが今までいっさいなかった。ずっと不規則で、朝に帰ってきたりとか、そういうことばっかりだったからね。

 でも、家で「疲れた」とかまったく言わなかったでしょ。すごく楽しそうだなーって思って。だから、起業に対して、すごくいいイメージを持ったんだよね。

パパ 楽しそうに見えてたんだね。

里佳 うん。実際、楽しかった?

パパ そうだね。もちろん大変なことはいっぱいあったけどね。

 でも、ソニーでの出世を捨てて起業するって決めたのは僕自身だから。好きなことを選択したのは自分。好きなことをやってるんだから、家ではしっかりしようと思ってた。たとえば朝の五時に帰ってきたとしても、ちゃんと七時には起きて、里佳を学校に送っていく。家庭という土台があって好きなことをやっているんだから、家庭を優先しようとは思ってたね。

 もちろん、楽しいことばかりじゃないけど、やっぱり「燃える」ものだったからね。「燃える」ものをやってるときって、そんなに疲れも感じない。毎日も充実する。で、その充実があるから優しくもなれる。自分自身の自由も獲得できるし、一方で人に対しても自由を認められる。

里佳 パパ、「自分で決めなさい」ってよく言うもんね。

 あと、パパ、超くだらないものばっかり作ってたじゃん? 「鷹の爪」とか。それを小学生のときから見せられてて。学校にも持っていったの、DVDを。で、教室で流してたりとかして。

パパ そうだったね。

里佳 それで、「鷹の爪」の中で、「ウンコ」を連呼するシーンがあったのね。「ウンコ、ウンコ、ウンコ、ウンコ」とかって言ってて。小学生にとってウンコって「神」でしょ? そしたら、学校中でみんな「ウンコ、ウンコ」言いはじめちゃって。あまりにもひどいから、先生が「鷹の爪禁止令」を出したの。「鷹の爪」はそれから一切流さないっていうふうになっちゃった。

パパ それはうれしいのか、なんなのかわかんないけど。

里佳 でもその状況も面白いなーって。やっぱり楽しそうなことをパパはやってるんだなって思ったよ。みんなを笑わせて面白くさせるのって、いいことなんだなというのは、そういうところで思った。

パパ人を喜ばせるのは、起業の原点みたいなところだからね。

里佳 ウンコ事件が原点(笑)。

パパ それだけ影響与えたってことだからスゴいことだよ(笑)。

「パパを見てて『すごい楽しそうだなあ』<br /> って思ったんだ」

(続く)

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