休日が取れなくなって、今日で1057日目。もう3年近く、1日も休んでいないことになる。

 近隣にコンビニが増え、店舗の乱立で売上げは激減。お客の取り合いばかりでなく、従業員も奪い合いとなり、今では時給を上げても応募者はゼロ。人手も足りなきゃ、人件費も削らなきゃで、オーナーである私たち夫婦は休んでなどいられない。

 もう3年のあいだ、休めないのが当たり前となったら、早朝出勤して、昼ごろに帰宅できたりすると、むしろ罪悪感すら湧く。空き時間に30 分ほど本屋にでも行ければ、休日を満喫した気分になる。コンビニの24 時間営業が社会問題となり、常連さんたちから「たいへんだね」と声をかけてもらえるようになり、精神的にはずっと楽になった。

 半年前、わが店から300メートルほどのところに、コンビニ最大手S社のコンビニが新しく建った。

 常連さんが「うち、Sから歩いて1分なのよ。旦那が『ビール買ってきて』って言うから、『ちょいと走って行ってくるわ』って言ったら、『ちゃんと地元のもんのところで買わなきゃ』だって。それでここまで自転車で来たのよ」と言って笑う。ありがたくて涙が出る。

 わが店は、コンビニ大手3社のうちの1社「ファミリーハート」(仮称)とフランチャイズ契約を結ぶ、関東地方のT県に位置する郊外店である。店の前に交通量の多い国道が走り、行き交うクルマが立ち寄るのと、このあたりの住民がメインの顧客だ。私は今も現役のオーナーであり、本名を明かすことはできない。

 この地に店を出して30年。いつのまにか地元の人々から「地元のもん」と呼んでもらえるようになった。地元のさまざまなボランティア活動を続けてきたことにくわえ、何より毎日店に出て、地域の人々と接してきたことが「地元のもん」と受け入れられることにつながったのだ。

 30年前に夫と2人でコンビニオーナーになった当初、私が直面したのは強烈な人間不信だった。

・レジに来たお客が、野良猫にエサでもやるように小銭を放り投げる。
・「お弁当、温めますか?」と尋ねると、レンジのほうを顎でしゃくる(「温めろ」ということらしい)。
・電話に出ると、「レシート見たらスパゲッティーが1つ余計に計上されているぞ。今すぐ家うちまで金持って謝りに来いよ !」。

……書き出せばきりがない。それは私がそれまでの人生で経験したことのない出来事だった。ふだんニコニコと接している知人や友人たちも、もしかしたら裏ではみんなこんな態度をとっているのかと疑いたくなった。

 だが、コンビニでの30 年間の歳月は私を劇的に変えもした。仕事を理解し、楽しんで手際よくやれるようになった。人が好きになり、服装や身なりなどの見かけでは判断できないことも十分に理解した。眉を剃り、肩から腕へ刺いれ青ずみを入れた男性と冗談を言い合える。30 年前の私からは考えられない変化だ。

 今、みんなが食べているもの、読んでいるもの、流行っているもの、そのすべてがコンビニに揃っている。店頭でコンビニの変化をずっと見続けていると、時代の動きまで見えてくる気がする。同じく、人々のものの捉え方、考え方の変化もまたよくわかる。コンビニは日本社会の縮図なのだ。

 本書に書かれているのはすべて、コンビニオーナーとしての30年間で実際に私が体験したことである。

 コンビニを通じての人間模様と社会の変化、そして何よりコンビニオーナーの痛みや喜び、その現実をとくとご覧いただくことにしよう。

※この連載は仁科充乃『テレビプロデューサーひそひそ日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。