コンビニオーナーが「中卒の引きこもり」をバイトに採用…3年後の「驚きの結末」に涙が出た写真はイメージです Photo:PIXTA

近隣にコンビニが増え、店舗の乱立で売上げは激減。お客の取り合いばかりでなく、従業員も奪い合いとなり、今では時給を上げても応募者はゼロ。わが店は、「ファミリーハート」(仮称)とフランチャイズ契約を結ぶ郊外店で、私は今も現役のオーナーだ。コンビニは日本社会の縮図。コンビニを通じての人間模様と社会の変化、そしてコンビニオーナーの痛みや喜び...。書かれているのはすべて30年間で実際に私が体験したことである。
※本稿は仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。人物名は全て仮名です。

某月某日 引きこもりの子
学生をバイトに雇うワケ

「中卒の子なんて、どこもバイトに使ってくれないよね?」

 トラックから荷物を下ろし終えた配送員の藤川雅代さんにそう問われた。近所に住む彼女はファミリーハートの冷凍便の配達員でもあり、店にもよく買いに来てくれる常連さんでもある。母子家庭である彼女のひとり息子が中学を卒業後、進学はしていないということは以前、聞いていた。

「なんで? 今、うちにも中卒で16歳のときから来てくれてるバイトの子がいるけど、すごく頑張り屋でよくやってくれてるよ。中卒だからダメなんてこと、ないでしょ」

 彼女を励ます気持ちの一方、それは本心でもあった。私の夫は3歳のときに父親を亡くし、中学を卒業するとすぐ親代わりの叔父の元を離れ、働きながら夜間学校*へ通った。その後、自分で働いて稼いだお金で専門学校に入り、いろいろな資格を取ったという。

 のほほんと親がかりで大学を出してもらった私とは、人生に対する覚悟が違うし、実際仕事も私よりずっとできる。そういう意味でも、私たち夫婦に「中卒」に対しての偏見はまったくない。

「うちの子、優しい良い子なんだけど、中卒で、どこも使ってくれないのよ。本人も自信失くしてしまって。マネージャーさんの店で働かせてもらえないかしら?」

 なるほど、そういうことか。

「中卒」に偏見がないとはいえ、そのこととバイトとして雇えるかどうかは別問題だ。うちだってバイトに応募してきた全員を採用しているわけではないし、むしろ私の審査基準は厳しいと自認している。

 後日、時間をとって藤川さんと話してみると、息子さんは中学を卒業して以降、3年のあいだ家から一歩も外に出たことがないらしい。お母さんの説得も頑(がん)として聞き入れず、部屋からもなかなか出てこないという。

 就職活動をしても中卒が壁になって「どこも使ってくれない」という話ではなかったのだ。