
わが店は、コンビニ大手「ファミリーハート」(仮称)と契約を結ぶ郊外店。私は今も現役のオーナーであり、本名を明かすことはできない。しかし本書に書かれているのは、すべて実際に私が体験したこと。リーマンショックのあと、大手の電機メーカーの工場に勤めているという村田さんがバイト求人に応募してきた。 年齢的にも難しいのではないかと思ったが、どうしてもとすがられ、週3日のバイトに入ってもらうことにした。
※本稿は仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。人物名は全て仮名です。
某月某日 コンビニバイトくらい…
「ラルク、どう取る?」
「コンビニバイト」というと蔑称(べっしょう)として扱われることがある。「そんなんじゃ、コンビニバイトくらいしかできないぞ」なんて。
しかし、コンビニバイトを侮(あなど)るなかれ。とにかくこなさねばならない仕事の種類が尋常ではない。レジに入っているだけでも仕事の種類は多岐にわたる。通常の買い物対応のほかにも、「宅急便、メール便、メルカリの受付」「ネット通販の支払い」「チケット販売」「ギフトの予約・販売」「代行収納」「預かり荷物のお渡し」「切手やハガキ、レターパックの販売」「市のゴミ処理券の販売」「タバコの販売」「総菜の販売」、季節によっては「年賀状の印刷受付、お渡し」「中元・歳暮の受付」などなど。
これらをこなすためには、物の置き場*をすべて把握しておく必要がある。切手のファイル、ギフトの申込用紙、宅急便伝票、メジャー、ガムテープ、紙の領収書、250種類以上あるタバコの保管先、総菜の保管先*……。
また「宅急便*」と一口にいっても、お客が荷物を持ってきたときの応対も簡単ではない。荷物の大きさ、重さ、届け先の場所、急ぎか時間指定があるかなどを鑑みながら、何で送るのが一番お得か、あるいは速いか、を判断しなければならない。
たとえば、厚みはないが重量があるものなら、宅急便より、レターパック*がお得だ。配達状況の追跡サービスもあるのでいつ届くのかも把握できる。ただし「明日までに届けてほしい」というのであれば宅急便を選択。最終的にはお客に選択してもらうので、何がどう違うのか説明しなければならない。
「このサイズでこの距離でしたら、宅急便だと630円で、明日の午前中にお届けできます。お急ぎでないようでしたら、ゆうパックなら620円です。どちらになさいますか?」
自分がきちんと理解していないとこなせない業務なのだ。
リーマンショックのあと、少しして大手の電機メーカーの工場に勤めているという村田さんがバイト求人に応募してきた。村田さんは隣の市の人だった。
「2人の息子が高校生で、これからお金がかかる時期なのに、会社は週3日しか稼働しなくなってしまったんです。会社に行っても、生産ラインは止まっているので、掃除をしたり、草取りしたりするくらいで……。会社からは『副業に行っても構わない』と言われていますが、ご近所の目があるので家の近くでは働きにくくて……」
村田さんは40代半ば、地方の国立大学を卒業後、技術畑一筋で働いてきた人で、レジ打ちなど初めてだった。奥さんが長年、別のコンビニでパートをしていて、「あなた、コンビニバイトならやれるんじゃない?」とお尻を叩かれたのだと言う。