
わが店は、コンビニ大手「ファミリーハート」(仮称)と契約を結ぶ郊外店。私は今も現役のオーナーで、書いたのは30年間で実際に私が体験したことだ。ファミリーハートの商品のネーミングセンスの悪さにも辟易(へきえき)した。そこには、お客の立場に立って考えていない姿勢が凝縮されていた。
※本稿は仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。人物名は全て仮名です。
某月某日 「愛」か、「憎」か
日本社会の縮図
私はファミリーハートを愛しているのだろうか? それとも憎んでいるのだろうか? この原稿を書きながら何度も自問自答した。
店を始めたばかりのころ、ファミリーハートが、いや、この仕事が大嫌いだった。もともと客商売は向いていないという自覚があり、学生時代のバイトですら、客商売には関わらないようにしていた。オープン当初、不慣れで至らないことも多かったと思うが、居丈高に怒鳴りつけるお客も多かった。何度も「やっぱり私は向いていない」と思ったものだ。
大手スーパーチェーン・S社がファミリーハートから撤退したあたり*から、本部からわれわれへの要求が多く、そして強くなったように感じた。われわれがブラブラ遊んでいるとでもいうかのように、次々と細かな指図が飛んできた。
「今だってこんなに忙しくてぎりぎりでやってるのに、これ以上できない!」
現場を知らないで、思いつくままに仕事を命じてくる本部に怒り*を覚えたこともある。
ファミリーハートが、他社のコンビニチェーンを吸収合併*し、万年3位から脱却しようと店舗数を増やし始めたころになると、現場の私たちの声はもうまったく本部に届く気がしなくなっていった。
ファミリーハートの商品のネーミングセンスの悪さにも辟易(へきえき)した。そこには、お客の立場に立って考えていない姿勢が凝縮されていた。
初音ミクの肉まんは「はちゅねミクまん」と命名された。お客が顔を真っ赤にしながら、「はちゅね……」と言うのを見て、すぐさま保温器の脇に「『ミクまん』と呼んでね」と貼り紙をした。
ほかにも、なぜかやたら難しい漢字を使いたがった。
「極旨」「鶏」「柚子」「焙煎」……高級で、さも手が込んでいるように思えるからだろうか。「読めないから注文しない」というお客が実際にいることに考えが及んでいない。そして、商品名にはやたら長たらしい説明がくっついている。
「北海道産大納言小豆のつぶあんまん」「とろ~りチーズの濃厚ピザまん」……。
お客が律儀にも頭からしっかり読み上げようとして途中で力尽きる。それを見てわれわれが心苦しくなる。