昔懐かしい雰囲気の残る校舎入り口

升野伸子(ますの・のぶこ)
筑波大学附属中学校副校長

 

日本公民教育学会副会長。専門は公民科教育・ジェンダー論。東京大学経済学部卒。お茶の水女子大学大学院修了。大妻中学高等学校教諭(社会科)を経て、2011年に筑波大学附属中学校教諭、19年より現職。共著に『女性の視点でつくる社会科授業』(学文社)、『入門 社会・地理・公民科教育――確かな実践力を身に付ける』(梓出版)、『生徒が夢中になるアクティブ・ラーニング&導入ネタ80』(明治図書出版)など。最新刊は、監修『中学校ってどんなとこ? 楽しい中学生活のヒント大全』(世界文化社)。

 

使命は理想的な教育課程づくり

――こちらの学校には10数年ぶりに参りました。あまり変わっていない印象で、懐かしい。筑波大学附属は、小中高がそれぞれ独立しており、いわゆる一貫校ではありませんね。

[聞き手] 森上展安(もりがみ・のぶやす) 森上教育研究所代表。1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、1988年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。

升野 私立の中高一貫校とは、学校として目指すものが異なります。本校の責務は、中学校の教育課程の研究であり、教師教育のフィールドを提供することにあります。全国にある中学校の、理想的な教育課程づくりが使命です。

――先取り学習はなさらないで、その分、深く学ぶのですよね。

升野 学習指導要領に準拠して行っています。その分、深い学びや対話的な学びを実践してきました。

――教科学習以外でも特徴がありますか。

升野 学級活動や学校行事のあり方、総合学習についても研究を積み重ねています。すべての生徒がリーダーシップを取ることができる場面を、学校生活のあちこちに設けているのも特色です。学級委員、部研究会活動の責任者、生徒会15団体の役員、運動会のクラス内リーダーやチームリーダー、学芸発表会(文化祭)の団体の責任者、修学旅行委員など、生徒の出番は多くあります。それぞれの場面で、自ら工夫しながら実践していく経験を積み重ねていきます。

 学校生活では、学級内をまとめる週番活動の他、学級週番に対して指導的な立場となる「全校週番」という活動もあります。これは、すべての生徒が卒業までに一度は行います。

 また、本校は「修学旅行発祥の学校」でもあり、十分な事前学習を行った上で、現地ならではの学習を五つのコースに分かれて行っています。帰って来ると自分のコースの「自慢大会」になってしまいますが、どのコースも充実した活動ができているようです。

――升野先生は社会科の公民的分野を教えていらっしゃいましたが、ジェンダー論もご専門になさっていますね。

升野 理科に女性教員が少ないと言われますが、実は社会科にも少なくて、それはなぜなだろう、ということがきっかけで研究しています。

――ところで、中学受験生の本校への関心は、やはり入試にあります。以前は実技4教科を含む8教科の学力検査を行っていましたが、実技系を外しましたね。いつからでしたか。

升野 2021年からです。すでに2回実施しました。

――入試科目を減らしたことの影響は出ていますか。

升野 21年は男子の受験生が増えましたが、22年は女子が増えました。それまでは8教科でハードルが高かった分、入試改革によって、実技系の音楽・家庭・図画工作・体育が気になって受験しなかった人たちに門戸を広げることになったかな、と思います。ただ、この学校の特色をご理解いただいた上で受験してほしいと思っています。

――20年から募集人員が約80人(15人増)に増え、ここ数年の受験者数は増えていますね。選考は成績順ですか。

升野 学力検査得点と報告書点の合計点と、報告書の内容を総合的に判断して判定しています。男女の生徒数をほぼ同じになるようにするため、男女で若干合格ラインは異なります。

訪問先の町役場で、「町おこし」について発表後に、職員の皆さんとディスカッションする3年生 写真提供:筑波大学附属中学校