小早川周司
2021年5月、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がビデオメッセージを通じて連邦準備制度(Fed)によるデジタルドルを巡る検討状況について述べた。この中でパウエル議長は、過去数年間にわたってさまざまな角度からCBDCのメリットとデメリットについて検討を重ねてきたことを明らかにし、今後の議論の焦点は、デジタルドルが米国の決済システムの改善に資するか否かを判断することにあると述べた。

日本では2020年10月、「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」が公表され、21年度から中銀デジタル通貨の基本機能に関する概念実証が進められている。21年10月15日には、第2回目となる中銀デジタル通貨に関する連絡協議会が開催され、概念実証の進捗状況や今後の進め方などについて、金融機関・政府関係者との間で意見交換が行われた。

欧州では、キャッシュレス先進国のスウェーデンが比較的早期からCBDC(eクローナ)の開発に着手してきた。そして、ここにきてグローバルステーブルコインの動向をにらみながら、欧州中央銀行(ECB)を中心にデジタルユーロの実現に向けた動きが加速している。

今回から日米欧中の4大経済圏におけるリテールCBDCの検討状況について、現時点で入手可能な情報に照らしながら紹介したい。まずは中国デジタル人民元を巡る動きである。中国人民銀行(人民銀行)では、デジタル人民元の狙いとして「中国経済のデジタル化の推進」「金融包摂の拡大」「金融・決済システムの効率化」を挙げている。

今回はリテールCBDCを念頭に、基本的な発行形態を説明した後、その特徴を決めるに当たってのいくつかの着眼点を中心に議論を進めてみたい。まず、CBDCには、銀行やノンバンクといった仲介機関を経由することなく中央銀行が個人や店舗に対してCBDCを直接発行する「直接型」と、これらの仲介機関を通じて発行する「間接型」が考えられる。

今回は、CBDCにどのような狙いがあるのかについて、海外の論調を参考にまとめたい。まず、新興国などについていえば、国民に対して金融サービスを幅広く届ける「金融包摂」のためにCBDCを活用するケースが多い。

「中央銀行デジタル通貨」という用語に接する機会が格段に増えてきた。英語ではCentral Bank Digital Currencyと表記し、略して「CBDC」と呼ばれる。中央銀行自らがデジタル通貨を発行してはどうか、という提案はかなり以前からなされていたが、CBDCという用語が中央銀行関係者の間で広く使われるようになったのはここ数年である。
