サブプライムショックに端を発するドル安が続けば、ドルの一極基軸通貨体制は今後どうなるのか? アメリカ経済戦略研究所のクライド・プレストウィッツ所長は「バスケット通貨の創出もナンセンスな話ではない」と主張する。(聞き手:ジャーナリスト マイケル・フィッツジェラルド)

内海孚
クライド・プレストウィッツ/アメリカ経済戦略研究所所長。国務省、民間企業などを経て、1981年からレーガン政権で商務長官特別補佐官を務め、数々の貿易交渉に携わる。著書に『東西逆転』(NHK出版)、『日米逆転』(ダイヤモンド社)など。

――ユーロが米国ドルに取って代わり、基軸通貨となる可能性は?

 私の目には、説得力を欠くシナリオに映る。むろんドルのさらなる下落や不安定化が予想されるなか、国際通貨システムにおけるユーロの役割が格段に高まることに異論はない。だが、世界経済の安定に寄与する単独基軸通貨としては、明らかに実力不足だ。

 同様のことは中国の人民元にも言える。経済規模が大きくても、資本取引が自由化されていない以上、基軸通貨の役割は果たせない。

 残念ながら、日本の円も実力不足だ。中国や欧州に経済規模で劣るのに加えて、金融市場が洗練されていない。要するに、「ドルに取って代われる存在は今のところ見当たらない」というのが私の実感である。

――ドルは基軸通貨としての地位を維持し続けると見ているのか。

 いや、そうは言っていない。「ドル一極体制」も風前の灯だ。今後は特定通貨が世界経済の運命を引き受けるのではなく、主要国が集まって多通貨を組み込んだ「バスケット通貨」をつくり、石油や主要資源の価格を表示するシステムを考えることが必要だと私は考えている。

 原油生産国の立場で考えれば、そのメリットはわかりやすい。彼らの通貨の大半はドルに連動しているが、じつは米国よりも欧州から製品をたくさん輸入している。バスケット通貨には、ドルのほかに、ユーロや円、人民元などが組み込まれるわけで、ドル安に伴う購買力の低下を取り戻せる。