アサヒビールは、主力ブランド「スーパードライ」の販売強化に着手する。

 強化策の目玉は、ビールが凍る寸前のセ氏マイナス2度前後にまで冷やした「エクストラコールド」というキレを強化した飲み方の提案。飲食店向けには特殊サーバーまで開発し、家庭用にも専用の冷却キットを景品で提供するなど、例年にない力の入れようだ。

 “氷点下ドライ”のターゲットは20代を中心とした若者。同社の調査では、20代の6割が氷点下にしたビールを、通常の4~8度のビールよりも好んだという。彼らが好む味を提供することで、「若者のビール離れを止め、新規需要を開拓する」(長尾俊彦・アサヒビール酒類本部長)という戦略だ。

 今回の販売強化策から見えてくるのは、ビール市場でシェア51%を占めるスーパードライの、強過ぎるゆえに抱えてしまった課題だ。

 ビールの2本に1本を占めるに至ったスーパードライだが、それだけに市場全体の動向に抗うことができない。実際、昨年はビール全体が前年比6・7%減、スーパードライは同6・6%減(課税出荷量)とパラレルな動きだった。

 ビール市場は縮小が止まらず、酒類のエントリー層である若年層がビールを手にしないことがその流れに拍車をかけている。「(ブランドに関係なく)若い人にビールは美味い、楽しいというイメージを持ってほしい」(長尾本部長)と力を込めるのは、ビール離れ=スーパードライ離れという構図となってしまったからだ。

 若年層ファン獲得が急務なのは、スーパードライは発売から23年経過し、現在のコアユーザーは40代以上と“高齢化”が進んでいることもある。

 その点でイメージが重なるのはキリンビールの「ラガー」。かつて圧倒的シェアを誇ったが、固定ファンの高齢化とともに昨年はシェア7位まで低下した。

 もっとも、キリンの場合は「一番搾り」「淡麗」「のどごし生」がラガーに替わる商品に育ったが、アサヒは同社の2番手ブランドの「クリアアサヒ」でさえ、出荷量はスーパードライの約2割で、アサヒを支えるまでに育っていない。

 アサヒはスーパードライの圧倒的な強さゆえに、ライバルとなる新ジャンルの展開が遅れ、また既存固定ファンの反発を恐れ、新味の提案も消極的になっていた。

 アサヒは「今まではブランドに安住していた」(長尾本部長)と巻き返しを誓う。ただ、今回の新しい飲み方提案のターゲットである若年層は節約志向が強い。価格面で不利なスーパードライは、「氷点下」をもってしても、手を焼きそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)

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