「困っちゃうわあ、うちの息子は仕事、仕事で。結婚どころじゃないらしいの」
「だって、一流企業にお勤めなんですもの。忙しいのはしかたないわよ」
「先日もいいお嬢さんがいるからって、主人の知人がお見合いの話を持ってきてくださったんですけどね。なんですか、1週間前になって急にドバイへの出張が決まって。英語がちょっと話せるものだから、便利に使われちゃうのよね。結局、お会いできなかったのよ」
「あらまあ、ご活躍なのねえ。きっと会社でも期待されてるんでしょう?」
リビングでおしゃべりしている母親とその友人の会話を聞いて、川井陽介さん(仮名・37歳)は思わずげんなりしてしまった。
『よく言うよ……』
家に恋人を連れてくるたび、気立てがどうだ、家柄がどうだ、学歴がいまいちだ、などと難癖をつけ、なんとか息子から遠ざけようとする。そのくせ、いつまでも結婚しないことを嘆いてみたり、ああして自慢だか弁護だかわからない長話をえんえんと続けたり。
いったい、息子に結婚してほしいのか、してほしくないのか。女性の心理は複雑怪奇だ。
「陽ちゃん、お客様をお送りしたいから、あなたが車を運転してよ。でね、帰りに買い物につきあってちょうだい」
「あらあ、いいわねえ。若い恋人みたいねっ」
キャッキャッとはしゃぐおばさまたち。川井さんはなんだか頭が痛くなってきた――。