気鋭のノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。富裕層の聖域に踏み込んだ同書では、選ばれし者のみが入居する「終の棲家」を徹底取材している。本稿では、超富裕層を顧客にプライベートバンク事業を展開するアリスタゴラ・アドバイザーズ会長の篠田丈氏に、先祖代々お金持ちの「名家」の人々の実態について話を伺った。(取材・構成 ダイヤモンド社書籍編集局)
名家は「お金の話」をしない
――『ルポ 超高級老人ホーム』で取材した富裕層は、いわゆる「財界人」が多かったように思います。ですが、よく言われる「名家」とはどのような人たちのことなのでしょうか。
篠田丈会長(以下、篠田):一般的には、お金持ちとして何代か続いてるような方たちのことを言います。今だと戦後だけでも3代目か4代目にはなってますから、そのぐらい続いてれば名家と言っていいのではないでしょうか。有名なところだと岩崎家だとか、三井家だとかは明治時代以前にはできていますよね。
――名家の末裔たちはどんな暮らしをしているのでしょうか。
篠田:案外普通に暮らされている方も多いです。最終的には家業を継ぐこともあるのでしょうが、一般企業に入られることも多いようです。ただ、名家の中って少し閉じられた世界の印象もあるので、家族間の争いもあるのかもしれませんね。
――富裕層同士はどこで出会ったりしてるのでしょうか。
篠田:やはり親の代ではないでしょうか。でも、情報交換のようなことは案外していないと思います。お金持ち同士って、あんまり生々しい話をしないんです。
もちろん我々は資産運用会社なんで、お金の話は仕事で聞きますが。あまり自分の家の懐事情について話すことはないようですね。
「金」を1トン購入するも……
――びっくりした話などはありますでしょうか。
篠田:あまり派手な話はないのですが、そんな強引な投資もやるんだ、と思ったことはあります。金額の大きさではそんなに驚かないんですけど、個人が投資する以上の金額を使っていたり。それと、金(ゴールド)投資は実物があるという安心感からか好きな人も多く、1トン単位で買っている話も耳にしました。
――金1トンってすごいですね!
篠田:個人で3トンぐらい金(ゴールド)を買った話を聞きました。海外へ持ち出すだけでものすごい金額の保険がかかってしまうようです。金(ゴールド)が置かれている場所って、だいたいスイスかロンドンなんですよね。なので、現物を移動させるだけでかなりお金がかかるんです。それでも実物がある投資は安心なんでしょうね。
アリスタゴラ・グループCEO
2011年3月から現職。1985年に慶応義塾大学を卒業後、日興証券ニューヨーク現地法人の財務担当役員、ドレスナークラインオート・ベンソン証券及びINGベアリング証券でエクイティ・ファイナンスの日本及びアジア・オセアニア地区最高責任者などを歴任。その後、BNPパリバ証券で株式・派生商品本部長として日本のエクイティ関連ビジネスの責任者を務めるなど、資本市場での経験は30年以上。現在、アリスタゴラ・グループCEOとして、日本、シンガポール、イスラエルの拠点から、伝統的プライベートバンクと共に富裕層向け運用サービスを展開、また様々なファンドを設定・運用、さらにコーポレートファイナンス業務等を展開している。