社員食堂や独身寮の復活、成果主義の見直し――。業績絶好調の総合商社がかつての日本型経営に回帰する動きを見せている。その背景には何があるのか。
三菱商事は2009年5月、品川などに分散していた本社部門が丸の内に再結集するのを機に、社員食堂を6年ぶりに復活させる。
1990年代以降、経営が悪化した企業の多くは、コスト削減策として、社員食堂や独身寮など福利厚生施設の閉鎖、売却を進めた。
それが思わぬ“副作用”を引き起こしていたことが、復活のきっかけとなった。
「社員同士が共有していた場が減ったことで、若手社員を中心に社内の人的ネットワークが希薄化してしまった」と三菱商事人事部の泉田龍吾企画チームリーダー。部門ごとの縦割り意識が強いとされる商社だが、ビジネスを進める際には他部門との連携が欠かせないのも事実。「中堅社員以上は他部門にいる寮の先輩などから情報をもらうこともできたが、今の若手は縦の人脈しかなく、他部門との連携が取れなくなっている」と世代間の人脈格差を危惧する。
同社が再開する社員食堂は夜間、ワインや焼酎なども提供する社員バーとして利用できる。“飲みニケーション”で社内のコミュニケーションを促進させる狙いがある。
回帰の動きは社員食堂だけにとどまらない。
住友商事は、実家からの通勤時間が1時間半以上の若手に限定していた独身寮を、昨年から希望者全員に開放した。今春入社の総合職153人のうち、実に9割が入寮するほど盛況だという。人事部の佐藤直生労務チーム長は「縦と横のつながりを深めることができるうえ、先輩社員による若手のケアや教育にも役立つ」と効果を期待する。
2006年に独身寮を復活させた三井物産は時を同じくして、バブル崩壊後に日本企業が雪崩を打って導入した「成果主義」の見直しにも着手した。目標達成が優先され、社内の情報共有の意識が薄れた結果、不祥事を相次ぎ起こしてしまったとの反省からだ。業績評価では売上や利益といった定量面より、定性的なプロセスを重視する評価制度に切り替えている。
各商社に共通するのは、コミュニケーション不足が予想以上に社内の分断と硬直化をまねくという危機意識だ。
1990年代にリストラを進めた企業の多くは目先の“数字”に目を奪われ過ぎた。ある総合商社の中堅社員によると、「現場サイドからもそれを修正すべきとの声が上がっていた」という。こうした取り組みはすぐに効果が出るものではないが、10年後には大きな企業間格差をもたらしうる。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)