「円安?」「国債?」「チャットGPT?」よく耳にするけれど、実際のところ何のことなのか、何が問題なのかわからないまま……そんな今さら聞けないニュースや用語の数々を、どこよりも楽しく、そしてわかりやすくご紹介します!大人気アニメ「秘密結社 鷹の爪」の吉田くんが新聞記者となって、世の中の経済ニュース・時事用語を基本からていねいに紐解き話題となっている書籍『「鷹の爪」の吉田くんが聞く!経済ニュースと時事用語がめちゃくちゃわかる本』の中から一部を抜粋、編集してお伝えします。
本連載は、好奇心旺盛な「鷹の爪」吉田くんの質問を、先輩であるアカツキ記者が答えていく会話形式で構成されています。今回のテーマは「中国の不動産バブル」です。
中国の空き家は30億人分あるとの推計も!
吉田くん(以下、吉田):先輩、ぼく、今すぐ中国に引っ越していいですか。止めても無駄ですよ。
アカツキ先輩(以下、アカツキ):どうした、お昼に食べた麻婆豆腐がそんなにうまかったのか。
吉田:いい大人ならちゃんとニュースを見なきゃダメですよ。中国では今、立派なマンションがたくさん廃墟になって放置されてるんです。3LDKをこっそり3部屋ぐらい使って「9LLLDDDKKK」として住んでも絶対にばれませんよ。
アカツキ:確かに、中国では今たくさんのマンションが建設途中や完成した状態で放置されていることが問題になっているな。2023年9月には、中国政府の統計担当の元幹部が「不動産は供給過剰で、空き家は30億人分あるとの推計もある。14億人では住みきれない」と発言しているんだ。
吉田:ほら、誰も気づいていない今が、ただで部屋を手に入れるチャンスですよ。ぼく、すぐに帰って荷造りしてきます。
貴州省にある「天下一の廃墟」は、なぜつくられてしまったのか?
アカツキ:。やめとけ。貴州省にある「天下一の廃墟」と呼ばれる高さ100メートル、総面積6万平方メートルの巨大なマンションに私の先輩の記者が近づいたところ、すぐに警察官が現れて「写真撮影は禁止だ。債務の問題があり、敏感な場所だから」と注意されたそうだ。しかも、貴州省の当局はこの廃墟を問題視し、開発を主導した地元・独山県の当時のトップを摘発している。日本人がこっそり住んだりしたら逮捕されるぐらいじゃ済まないかもしれないぞ。
吉田:えーっ。摘発とか逮捕とか、なんでそんなにピリピリしてるんですか。空き家がたくさんあっても別にいいじゃないですか。
アカツキ:この「天下一の廃墟」の場合、地元の独山県が年間収入の20%を建設費として投入してしまった。過剰な開発投資を続けた独山県は年間収入の40年分にあたる借金を抱えてしまったんだ。貴州省では他の都市でも過剰と思える投資が相次いでいて、政府系のシンクタンクが「債務処理を進めるのは非常に難しく、省の能力だけではすでになすすべがない」と指摘した。
吉田:なんでそんなことになったんですか。貴州省のえらい人たち、借金してまでマンションを造っても売れ残るんじゃ意味が無いってわからなかったんですか。
アカツキ:貴州省だけの問題ではなく、同じようなケースが中国各地で起きている。背景にあるのは、役人の出世欲だ。共産主義の中国では土地は国有で、地方政府は土地の使用権を企業に売ることで収入を得てきた。使用権の売却収入は地方政府の財政収入の約4割を占めてきたんだ。売却で財政収入を増やし、しかも売った土地の開発で住民が増えて街が発展すれば、役人は中央政府から高く評価され、自身の昇進につながる。このように役人主導で物事が進むから、採算が取れるか、計画が実現するかなどは度外視されてしまった。
吉田:売れば売るほど儲かって出世できるんじゃ、役人さんたちもやめられませんね。
アカツキ:中国財政部によると、地方政府全体の使用権の売却収入は2021年時点で8.7兆元、約176兆円に達し、約20年間で150倍ほどに増えた。ただ、全国で行きすぎた開発が進み、大量の物件が売り出されてしまったことで、ついに土地や建物の価値が暴落する「不動産バブルの崩壊」が起きてしまったんだ。
中国の不動産バブル崩壊はレベルが違う!
吉田:バブル崩壊って日本でも起きたやつですよね。
アカツキ:中国のやつはちょっとレベルが違うぞ。中国で個人が住宅を買う動きが広がり始めたのは1998年ごろだった。当時の住宅販売額は2000億元、約4兆円だったが、急速な経済成長で人々の所得も上がり、住宅は値上がりし続けるという「神話」が広がった。地方政府がどんどん土地の使用権を売って開発を後押ししたことも重なり、富裕層を中心に自分用に1軒、子どものために1軒、投資用に1軒……と次々購入する人も増えた。結果、2021年の販売額は16.3兆元、約340兆円になった。20年強で約80倍に急拡大したわけだから、ものすごいバブルだよな。
アカツキ:きっかけを作ったのは習近平政権だ。2020年に不動産会社の資金調達に規制をかけたため各社の資金繰りが厳しくなり、経営が悪化。「買えば必ず値上がりする」という不動産神話が崩れ、2022年の住宅販売額は前年比3割減に落ち込み、価格も大幅に下落してしまった。
吉田:人間、欲をかきすぎるとろくなことがありませんね……。まぁぼくはマンションどころか、お昼ごはんを買うお金もありませんけどね。先輩、今日はカツ丼よろしくです!
アカツキ:ふざけるな。
※本稿は『「鷹の爪」の吉田くんが聞く!経済ニュースと時事用語がめちゃくちゃわかる本』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
※吉田くんとアカツキ先輩が活躍中のアニメ連載「そもそも?知りたい吉田くん」は朝日新聞デジタルで読むことができます。