キリンホールディングスとサントリーホールディングスの経営統合交渉が破談した。

「売上高約4兆円、世界で戦える食品メーカーの誕生」と期待を集め、規模で海外企業に劣る日本の産業界全体の再編機運も高まっていただけに、その影響は大きい。

 統合交渉の障害となったのは、下交渉(ほぼ対等の合併)とは異なった、キリンによる統合比率(キリン1に対してサントリーが0・5)の提示、キリンの医薬品事業やサントリーの文化事業など互いの資産の評価に対する食い違いだ。

 統合比率の言い分の違いの根本には、公開企業といえども「大株主(=創業家)の権利」を当然のものと考えるサントリーと、それを「他の株主や従業員の理解を得られないもの」とするキリンの考えが、最後まで相いれなかったことに尽きる。非上場オーナー企業と、財閥系上場企業の文化の差を埋め切れなかったとも言い換えられる。

 サントリーの佐治信忠社長は「(キリンにはさまざまな利害関係者の声があったにしても)ルビコンを渡ってくれなかった」と残念がる。もっとも、ルビコンを渡れなかった点ではサントリーも同じ。国内の過当競争を脱し、成長する海外市場で事業展開するという共通の大目標がありながら、小異を捨て切れなかったのだ。

 両社の足元の好業績も見逃せない。不景気のなか、両社とも2009年12月期決算で連結経常利益は過去最高を更新。“尻に火がついていない”状態が、統合に拘泥しなかった一因ともなっている。

 しかし、両社が将来の生き残り策として掲げるグローバル市場の競争環境は、厳しさを増す一方だ。

 規模では売上高約10兆円のネスレ(スイス)には遠く及ばず、収益力でも直近の最終利益でキリンが491億円、サントリーが327億円なのに対し、たとえば売上高約4兆円の米ペプシコ、同3兆円の米コカ・コーラ両社とも5000億円強と差は歴然だ。今年に入っても食品世界4位の米クラフト・フーズが菓子世界2位の英キャドバリーを1・7兆円で買収するなど、大規模M&A合戦が繰り広げられ、規模を武器に新興国開拓は着実に進められている。

 キリン、サントリーとも現状の企業規模では十分でなく、国内市場の縮小とともにジリ貧の可能性も否めない。両社とも新たなパートナーを探すことを公言しているが、企業文化の差を埋め切れなかった両社が挑むのは、文化も言葉も食習慣も違う海外市場での巨大海外企業との競争だ。内向きの論理は通用しない。

 キリンは「15年に売上高3兆円」の目標を掲げているが、今回の破談で達成はそうとう困難になった。新たな成長戦略が必要になるなか、加藤壹康代表取締役社長は代表権を返上し会長に退き、三宅占二副社長が社長に就くことになった。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)

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