坂本龍馬を“キャラクター”に使用した菓子が人気となり、従来の菓子業界にはなかった取り組みが注目されている。
話題となっているのは、NHK大河ドラマ「龍馬伝」にちなんで、ロッテが6月22日に期間限定で発売した龍馬伝シリーズ。「パイの実」や「クランキー」など、人気ブランド菓子を、鹿児島や京都など龍馬にゆかりのある地にちなんだ、例えば京都なら宇治茶抹茶など、ご当地の特産物の味に仕上げた6商品だ。
龍馬を使用した効果は絶大だった。龍馬はいまや大河ドラマという国民的番組の「キャラクター」。そういう点では、これら6商品はキャラクター菓子の側面も持つ。菓子業界では「仮面ライダー」や「アンパンマン」などを使用したキャラクター菓子は定番だったが、龍馬を使用することで大河ドラマがCMの役割となるし、「歴女はもちろん、普段は菓子コーナーを素通りする男性も手に取ってくれる」(米山智・ロッテ商品戦略部プロモーション担当)という効果があった。
龍馬が、故郷の高知に始まり、京都、長崎、鹿児島など全国を行脚して、各地でエピソードを残していたことも、ありがたかった。じつは国内旅行業界は龍馬をキーワードにすれば、それぞれを観光するきっかけになるとのことで、龍馬にあやかったツアーが大量に企画されている。これが例えば武田信玄なら山梨県周辺だけとなってしまうので、龍馬の経済効果が大きいことが想像できるだろう。
そして、これは例えば福岡なら明太子味など「ご当地もの」が売りとなる菓子にも当てはまった。龍馬を使用したことで、前述のように、京都の宇治抹茶味のほかに、鹿児島の紫芋とサツマイモ、高知のゆず、長崎のカステラなど、それぞれ特徴のある特産物を連想させ、魅惑的な新味を発売する“口実”となったのだ。
新味は新たなユーザーを引きつける効果がある。もっとも、各社から毎週のように新味の商品が供給される今日では、その新鮮さや驚きも薄れがちとなっていた。そんな中で、龍馬の使用とそのゆかりの地の味を加えることで、新味への興味プラスアルファの話題となって、ブログやツイッターへの書き込みも増え話題が話題を呼ぶ好循環となった。「従来(の新味発売時)とは異なる反応」(米山氏)だという。
異業種で旅行業界トップのJTBとのコラボも注目点だ。「旅行に菓子はつきもの」という相性のよさをコラボの理由に挙げているが、それだけではない。各商品の箱にJTBから提供された龍馬とゆかりのあった建物の写真や、人物相関図、解説文がプリントされ、その本格的な作りや内容こそがヒットを支えている。ガムの包み紙には龍馬が遺した「世に生を得るは、事を為すにあり」などの名言がプリントされ、龍馬ファンを喜ばせると同時に全18種類の名言をそろえたくなるような仕掛けがしてある。これらは、子どもがオマケ付き菓子を買いたくなるのと同じ心理を大人にも働かせているようで、購買意欲をそそっている。
今回の龍馬シリーズの菓子は期間限定商品のため7月末で販売終了となるが、「“楽しい”というキーワードでくくれるなら、菓子はどんなコラボでも可能なので、いろいろなコラボ商品にチャレンジしたい」(米山氏)と、歴史ものを含め今後も新たな切り口の商品が登場予定だ。
今日、菓子業界は少子化による市場縮小に頭を悩ませている。ユーザーの間口を広げること、異業種と連携して付加価値を高めることの重要性が高まっているだけに、今後もこれまで想像もしていなかったようなコラボ商品が登場するかもしれない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)