私たちは、言いづらいことを相手に伝える時、つい周りくどい言い方をしてしまう。場合によっては、「何が言いたいの?」と相手を苛立たせてしまうこともあるだろう。それは、「私たちは相手が知るべきことよりも、自分が言いたいことに注意を払っているからだ」と指摘する本がある。全米25万部を超え、世界16か国以上で刊行の話題作『Simple「簡潔さ」は最強の戦略である』だ。著者は、現在670万の定期購読を誇るデジタルメディア「アクシオス」の共同設立者3人である。「アクシオス」が最優先に掲げるマニフェストは、「読み手ファースト」だ。果たして、私たちは日々のコミュニケーションにおいて、「相手ファースト」を実現できているだろうか。本書の内容をもとに、その方法を解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
語りかける相手をイメージしてから話す
学生の頃、始業式や終業式で語られる校長先生の話は退屈ではなかっただろうか。
5分、長ければ10分以上もかかるその話に「時間の無駄」と感じた経験がある人も少なくないはずだ。
実は、これは学生に限った話ではない。2021年9月、ローマ教皇フランシスコは、説教を40分から10分に短縮するよう指示した。理由は「聞き手が興味を失う」からだ。
あなたも教皇を見習うべきだ。(P.56)
聞き手にとって、興味のない話を延々されることほど苦痛なことはない。だからこそ、コミュニケーションにおいて、「相手のことを考えることが重要」なのだ。
頭のなかで、語りかける相手を思い描く。集団を相手にするときも、集団のなかの1人の具体的な人物や名前、顔、役割に焦点を定めること。(P.56)
語りかけたい人を具体的にイメージすると、発言が明確になる。
コミュニケーションを円滑にする「スマート・シンプル」
そして、「読者を具体的にイメージすること」と同じくらい重要なのは、メッセージをその読者にピッタリと合わせて「スマート・シンプル」に伝えることだ。
「スマート・シンプル」とは、人々が発し、消費する言葉を大幅に減らすこと。そして、思考を研ぎすまし、より明快に伝達し、自分と相手の時間を節約するための仕組みだ。
そうすることで、「コミュニケーションを飛躍的に改善できる」というわけだ。
NGの話し方──ポイントを「言葉のもや」に隠してしまう
本書では、「スマート・シンプル」な伝え方のわかりやすい例として、謝罪の場面のよくある例といい例が挙げられている。
よくある例はこんな感じだ。
謝罪となると、ついつい言葉数が増えてしまう人が多いのではないだろうか? 一方で、いい例はこのようにシンプルだ。
これを読んで、「あ、こういう謝り方、したこと(されたこと)ある」と思った人も少なくないのではないだろうか。
謝罪の意図が、言い訳の中に埋もれてしまっているのだ。
業務上の予定変更もそうだ。こちらはよくある例。
そして、こちらがいい例だ。
短く、無駄なく、シンプルに伝える
前述の例は決して他人事ではない。シンプルに言うべきことだけ書けばいいのに、つい言い訳や取りつくろうようなことを書いてしまう場面は多々ある。
ただ、そういった伝え方は、人間関係やコミュニケーションを損なう原因にもなるという。
だからこそ、「スマート・シンプル」に伝える。
そのコツを、本書では次のようにまとめてくれている。
1.「伝えたい1人の相手」に語りかける
大人数に伝える場合でも、集団のなかの1人の具体的な人物や名前、顔、役割に焦点を定めて伝える。全員に語りかけようとすべきではない。
2. 心にとどめてほしいことを「1つ」はっきりさせる
「伝えたいことだけ」を伝えて、そこでやめる。「そこでやめ!」という思い切りが大事だ。
3. 人間に向けて「人間らしく」書く
シンプルにわかりやすく、単刀直入に、語りかけるつもりで。誠実さと思いやりは欠かせない要素である。
4. そして書く
読み手に「少なくともこれだけは心にとどめてほしい」ことを1つだけ書く、ほかのことは後回しでいい。それをできるだけ短い1文にする。短ければ短いほどいい。疑問文ではなく、断定的な文にするかデータを示す。
5.「よけいなこと」は言わない
人はごまかしたり、言い訳しようとするとき、たいてい饒舌になる。「よけいなこと」を言わないように注意しよう。
最初は慣れず、ついつい書きすぎてしまうかもしれない。しかし、この手法を身につければ、きっとコミュニケーションがスムーズになるはずだ。
業務連絡など、書きやすそうなものから試してみてはいかがだろうか。