年金記録問題、医療危機、格差問題など、日本の社会保障は危機に直面している。社会保障改革は「待ったなし」の状況だ。そんな折、これまで一貫して年金記録問題や厚労省の体質改善に取り組んできた長妻昭議員が、厚生労働大臣を退任した。長妻氏が閣外に去ったことにより、社会保障改革の求心力は失われてしまうのか? 現在は民主党の運営に専念する長妻氏に、厚労相時代に行なった取り組みの成果と、民主党が進めるべき社会保障改革について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也、撮影/宇佐見利明)

ながつま・あきら/1960年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業。衆議院議員、民主党筆頭副幹事長。2000年、第42回衆議院議員総選挙で初当選。07年から民主党「次の内閣」年金担当大臣に就任。年金記録問題では与党や官僚追及のリーダーシップをとり、「ミスター年金」と呼ばれた。民主党への政権交代に伴い、09年9月より鳩山内閣、10年6月より菅内閣で厚生労働大臣を勤める。菅改造内閣の発足をもって厚生労働大臣を退任、 10年9月より現職。

――長妻議員は、野党時代から熱心に社会保険改革に取り組んできた。民主党が目指す日本の社会保障の「理想像」とは、そもそもどんなものか?

 従来の社会保障政策には、「哲学」が欠如していたように思う。

 自民党政権時代には、「社会保障と経済成長はトレードオフの関係にある」という考え方が根底にあった。つまり、社会保障を重視すると経済成長が犠牲になるという関係だ。「社会保障は経済成長のお荷物」と考える人は、たくさんいた。

 そのため、予算編成の過程で「社会保障費の自然増分から毎年2200億円を削減する」という目標が立てられた。これは、社会保障の崩壊不安をもたらした。たとえば、後期高齢者医療制度は、「75歳以上の高齢者にかける医療費を事実上カットする目的の制度ではないか」と批判を受けた。

 そこで、政権交代を果たした民主党は、「消費型・保護型社会保障」を前提にしていたこれまでの方針を転換し、「参加型社会保障」(ポジティブ・ウェルフェア)の実現を目標に掲げている。