医薬品メーカーは国民の命と健康を守る使命がある。にもかかわらず、ジェネリック医薬品(後発薬)業界は大手の日医工や沢井製薬までも品質不正に手を染めており、企業個々の問題では片付けられない。特集『薬不足はいつ終わる?ジェネリック再編』(全6回)の#3では、なぜジェネリックメーカーでこれほど品質不正が多発し、薬不足に陥っているのか、その問題の核心に迫る。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
最大手である沢井製薬の不正
「法令遵守の意識が低かった」
2020年以降ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーの品質不正が続々と発覚し、製品の自主回収が相次いだことで発生した薬の供給不安。21年に業界中堅の小林化工、最大手だった日医工と、取り扱っている品目数の多い2社に業務停止命令が下った影響は大きく、後発薬の流通に大きな混乱を来すようになった。
23年には、業界トップの沢井製薬でも不正が明らかとなる。胃薬「テプレノンカプセル50mg『サワイ』」で、品質試験の不正が15年から続いていたのだ。再建を断念した小林化工から生産体制を引き受け、長引く薬不足解消の旗手として期待を寄せられていた最大手の不祥事に、業界には大きな衝撃が走った。
「法令を遵守する意識が低かったが故に、盲目的に上司の指示に従い不適切な行為を継続していた」「当時のリーダー及びチーフは、これが適切な試験方法ではないことを認識しており、その指示を受けた試験担当者も、多かれ少なかれ疑問を感じていた」「上司の指示には逆らわず、とにかく上司の指示通りに作業を行えばよいという意識が強かったことにも起因している」―――。
沢井製薬で不正が継続してきた背景について、外部の専門家や弁護士らで構成する特別調査委員会がまとめた調査報告書からは、問題を認識していても上司の指示に逆らえない、法令より上司に従うことが優先されていたというゆがんだ企業風土が垣間見える。
この行き過ぎた上意下達の組織は、小林化工が品質不正に至った経緯と酷似している(本特集#1『外様社長は見た!親会社オリックスから送り込まれた後発薬不足の原因企業の「壮絶パワハラ文化」』参照)。
経営幹部も認識していた違反行為が多数存在した小林化工とは対照的に、沢井製薬については一連の不正は現場の認識の甘さが原因であるとして、「上層部が関与して組織的に行われた行為であったとまでは認められない」と特別調査委員会は結論づけている。
とはいえ、国民の命と健康を守る使命がある医薬品メーカーで、しかも業界トップのずさんな内情が浮き彫りとなったこの一件は、後発薬自体への信用を大きく失墜させた。
後発薬業界においてなぜこのようなGMP(医薬品適正製造基準)違反が続出しているのか。後発薬業界最大の業界団体である日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)は、「経営者の関連法令を遵守する意識の欠如」「不健全な企業文化」「企業としてのガバナンス」「組織体制の不備」の四つを原因として挙げている。
いずれも組織体制・企業文化に関する事項であり、今回の後発薬の供給不安はガバナンスの問題として表出したが、その根本には「後発薬業界の産業構造上の課題が存在する」とライズ・コンサルティング・グループ常務執行役員で製薬企業へのコンサルティングを数多く手掛ける甲斐健太郎氏は指摘する。
次ページでは、空前の医薬品不足を招いた後発薬業界の「問題の核心」に迫る。