“NEW ENERGY FOR AMERICA”──。オバマ次期大統領は、選挙中から環境重視と脱・石油、そしてそれらの分野への投資による雇用創出を、政策プランとして打ち出していた。
新政権発足後、米国のエネルギー政策がこの路線に則ったものとなることは間違いない。エネルギー長官にスティーブン・チュー氏、農務長官にトム・ビルザック氏が指名されたこともそれを示唆する。両者ともバイオ燃料など代替エネルギーの推進論者である。1月8日にはオバマ次期大統領が、経済対策の一部として、今後3年間で風力、太陽光、バイオ燃料など代替エネルギーの生産を倍増するとも表明した。ところが、米国バイオエタノール産業を覆う暗雲は、晴れることがない。
昨年、エタノール業者を苦況に追い込んだトウモロコシ価格は、昨年6月の1ブッシェル7ドル台から現在は4ドル前後まで下落しているものの、06年までの2ドル台に比べればなお高い。一方でエタノール価格は昨年の1ガロン2ドル台から1ドル台半ばへと下落。「マージンは完全に低下しており、経常ベースではまだ赤字」(翁田紘希・住商アセットマネジメント証券市場調査グループアナリスト)だ。供給過多の構造は変わっておらず、エタノール燃料の需要は今後さらに減退する見込みだ。景気後退で燃料需要そのものが落ち込んでいるところに、原油価格の下落が追い打ちをかけた。いまやガソリンとエタノールの価格は逆転し、税控除による補助があっても、エタノール燃料を使うインセンティブは低くなっている。
昨年10月末には、ついに業界第2位のベラサン・エナジー社が破綻した。同社の破綻はトウモロコシの先物ヘッジが裏目に出た面が大きいが、そのインパクトは大きく、それまで強気の姿勢を維持していた米国農務省も、需要予測の大幅な下方修正を余儀なくされた。こうしたなか、オバマ政権の環境・エネルギー政策に対する業界の期待は、いやがうえにも高まっている。だが、ことバイオエタノールに関しては、逆風は強まるばかりだ。現状、米国のエタノール需要は、政府がガソリン製造・輸入業者に課す再生可能燃料使用義務づけによって支えられていると言ってよい。この使用義務量は年々拡大中だ。
しかし、先述のとおり実際の需要は拡大するどころか減退している。ガソリン業者はもはやエタノールなど売りたくない。エタノール生産業者は採算が合わない。「エタノール産業は行き詰まっている」(翁田アナリスト)のだ。
政府は11月、ガソリンへのエタノール混合率上限を7.76%から10.21%へと引き上げると発表、さらなる引き上げも検討されている。またオバマ次期大統領は、政策プランで、すべての新車をフレックス燃料車(ガソリンとエタノールなどを混合して走れる自動車)にするとしている。これらはエタノール業界の要望と一致するものだが、一方で、石油精製業界や畜産業界などは混合率引き上げに強く反対している。政府にとって頭が痛いのは、エタノール燃料の使用拡大はかえって健康や環境に害があるとして、さらに健康関連団体や環境保護団体も反対に回っていることだ。「畜産業界の反対は織り込み済みだが、これは環境重視を看板とする政権への揺さぶりとなる」(三野敏克・ジェトロ・シカゴセンター農業担当ディレクター)。
新農務長官のビルザック氏は一大農業地帯であるアイオワ州の前知事であり、「使用義務量の大幅な緩和といった極端な政策変更はないのではないか」(桧垣元一郎・住友商事アセットマネジメント部環境ファイナンスチーム長)との見方はあるが、このままではジリ貧である。かといって、支援を拡大するには産業として難点が大きい。
オバマ政権は、難しい舵取りを迫られることになりそうだ。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 河野拓郎 )