
「物価高や円安のせいで海外旅行に行けない」と聞くことが増えた。日本人のパスポート保有率は17.5%(2024年)にまで落ち込んでいる。ちなみに近隣諸国と比較すると、韓国人は同40%程度、台湾は同60%程度だ。なぜ日本人は海外旅行をしないのか。物価高と円安にとどまらない理由を探った。(ライター 前林広樹)
物価高や円安が
海外旅行しない理由か?
旅行大手JTBの「2025年の旅行動向見通し」によると、「海外旅行に行かない理由」として、「旅行費用が高い」(33.6%)、「家計に余裕がない」(26.4%)、「円安だから」(24.4%)などの理由が上位を占めている。主に経済的な理由で、海外旅行に行かないと考えている人が多い。

しかし、本当に物価高や円安だけが、海外旅行に行かない原因なのだろうか?
今年で35歳になる筆者は、リーマンショックや東日本大震災などの影響で1ドル80円前後の「超円高」時代、2009年~12年に大学生だった。当時も「若者の海外旅行離れ」がよく指摘されていた。
また、今は世界の多くの国で物価が上がっている。他方でベトナムやフィリピンのように日本よりも物価がだいぶ安い国も存在する。
実は、「若者の海外旅行離れ」というワードは1990年代から存在するという(詳細は参考文献)。98年8月1日の日本経済新聞には「海外旅行減少の本当の理由 若者が目的を失う」という見出しで、「若者の海外旅行は96年をピークに、昨年から長期的な凋落傾向に入ったと言えそうだ」と書かれている。
メディアで「若者の海外旅行離れ」が本格的に取り上げられるようになったのは2007年、JTBの調査で言及されたのがきっかけだ。当時の報道では、経済的余裕のなさに原因を求めるものが多い。
しかし、それ以外の理由として若者が「国内旅行の方がいい」「海外に関心がない」といった「内向き志向」を取り上げたものも多い。
いったいどんな要因が日本人、とりわけ若い世代を海外旅行から遠ざけているのだろうか。経済的理由以外についても、考えてみたい。